「メフィストさまぁ…!遅いっ!」

 お腹減った、しかし料理をしようにも冷蔵庫は空っぽで一つも使えそうな材料はない。豪華なキッチンを目の前にしてあたしは呆然と立ち尽くすことしかできなかった。いつもは学園周辺をうろうろすることができるのに今日はメフィストさまに外出禁止令を出されてしまい私はこの部屋から一歩もでることはできない。
 「なんで禁止なんですかぁ!」と講義してみたけれど「私がいないと千花は何をしでかすかわかりません」と語尾に星が付きそうなくらいにこやかな笑顔で言われてしまった。確かに調子にのったあたしは自分でも自分を制御できないからなあ。何も反論できないことが悔しいやら悲しいやら。いやポジティブに考えればメフィストさまはあたしのことをよく理解しているて喜ぶべきなのかもしれない。

「にふふ!」

 思わずでた笑い声とにやけ顔。今のあたしは幸せそうで、締まりのないアホっぽい顔をしているんだろうなあと鏡を見ずにも予想できた。テンションも高くなるが今はすぐに下がってしまう。

ぐー

 間抜けな音がメフィストさまのお部屋に響く。だってお腹空いたんだもの、あたし。ペコペコのお腹に手を当てるとまたぐーっと音がなる。ピンクのソファーに寝てみたり、メフィストさまに買ってもらったPSPをしても、もうお腹は極限ペコペコで紛らわすことはできそうになかった。

「めーふぃーすーとーさーまー」

 何故か開かないドアにイラつきがちゃがちゃとドアノブを回す。唯一外から食事を運んできてくれる期待のメフィストさまは今だに帰ってこないし。メールや電話も何回もしたけど全く応答なし。
 ああもう、あたし限界。いますぐにお食事がしたいの。がちゃがちゃ。がちゃがちゃ。メフィストさまあたしお腹減って死んじゃいそう。がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ。おいしい、おいしいメフィストを、食べたいの。がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃり。

「っいたい!」
「おっとごめんなさーい!」
「めふぃすとさまあ!!」

 いきなり開いたドアに真ん前にいたあたしは吹き飛ばされる。腰と頭を打った。痛い。しかしそんなことはどうでもよく、あたしは一瞬に立ち上がりメフィストさまに抱き着いた。しかし勢いあまりすぎたのかメフィストさまはあたしに耐え切れずぐらりとよろめいてしまった。ああこの細腰……だいすき。

「もう!どこで何やってたんですかあ!お腹減って死にそうなのにい!」
「フフフ、野暮用を少々」
「あたしと野暮用どっちが大事なんですかあ!」

 何が野暮用ですか、朝からあたしをこの部屋に閉じ込めて行ってしまったくせに。おかげであたしは今日一日何も食べていないんだから。あたしにとって食事は生きる上で最も大切な行為なのに!人間の三大欲求っていうのに食事は入ってるらしいのに!メフィストさまだってそれくらい知っているはずなのに。がるると怒るあたしを完全無視してそうですねー、とあたしか野暮用か悩むメフィストさまの手を掴む。

「もういいです。そんなに悩まれると答え聞くの怖いです!それよりお腹が減りましたあ」
「おやおや、真剣に悩んだ結果、千花ではなく野暮用に決まったのに」
「うわあん!」

 そうなるかもしれないと思ったから止めたのに!メフィストさまのばかー!あほー!ごはんー! メフィストさまの手に頬擦りしながら叫ぶとメフィストさまは「仕方ないですねえ」いいとにやりと嫌な笑みを浮かべた。ぞくり。ぞくぞく。

「っむぐ!」
「そんなにお腹が減ったなら私の指でもいかがですか?」

 背筋に走った嫌な予感の通りのことが起こった。あたしの口に、メフィストさまのごつごつしてるけど白くて長い綺麗な指が2本突っ込まれた。いきなりのことに苦しくてメフィストさまを睨むようにみてしまった。涙の浮かんだ目で睨んでも怖くないだろうけど。

「まったくお腹が減ったならそこらのコールタールでも食べればいいでしょうに」
「ふふぉへあふぉほーふはーふはぁないへふぅ!(この部屋にコールタールいないですう!)」
「なら外へ、あぁ悪さをしないように閉じ込めてたんでした。ハハハッ!」
「っぷは!はぁ、笑い事じゃないんですよ!死活問題だあ!」

 ニヤニヤ笑うメフィストさまにやっと抜いてもらえた指を睨みながら息を思いっきり吸い込んだ。あああたしの汚い唾液塗れのメフィストさまの指。綺麗な指がベタベタ光ってる。じゅるじゅる。

「ではお詫びにご褒美のごはんをあげましょう」
「やったあ!はやくー!」
「と、そのまえに」
「もうなんですかあ」

 ご褒美の言葉にるんるん気分のあたしはもう早くご褒美とやらを食べたくて仕方がない。でもメフィストさまは意地悪だからすぐには食べさせてくれない。珍しく真剣なメフィストさまの瞳はあたしの心臓はどくんどくんと高まる一方。

「さっきくわえながら嫌そうに私を睨んでましたが、私の指っておいしくないんですかね?千花もう私いらない?」
「あ、あれはいきなりで苦しかっただけで……!!やだあ!いるの!」
「おいしかったですか?」

 こくこくっ!と必死に頷くとメフィストさまは満足したようだった。メフィストさまの指がまずいだなんてありえない。メフィストさまがいいというならその指ごと頂きたいくらいなのに。ああメフィストさまの指、想像するだけでおいしそう。コールタールは300匹くらい食べないとお腹いっぱいにはならないのにメフィストさまの一部ならすぐにでも満腹。ああメフィストさまってすごい。だいすき。人間のご飯もおいしいけれどメフィストさまが一番。

「何ニヤニヤしてるんですか。ご褒美いらないんです?」
「ううーはやくくださあい」
「食いしん坊め」

 そう言うとメフィストさまはあたしの頭を引き寄せ唇を近づけてくる。意図を察したあたしはつま先だちになり自らメフィストさまの唇にそれを当てた。にゅるっと入ってきた舌にこたえればちゅるっとあたしとメフィストさまの唾液が混ざり合う。息をするのも忘れながらあたしは溢れ出した唾液を1適も零さないように舐めとった。












悪魔らう












「っはふうー……おいし」
「……ハァ、10分は長すぎですよ」
「だってお腹減ってたんですよお。長いのがやなら血を下さい、血」
「ハハハッ!悪魔の好物が悪魔だなんて!」







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