※drrr9巻を読まないと話がわかりません。
「奈倉ー誰かが門でお前のこと呼んでんぞ」
「は?誰だよ」
「女の子だってよ。告白じゃね?」
えっ、と友人のからかうような言葉にどきっと心弾ませた奈倉は急いで門に向かった。バサバサっと奈倉の腕に引っかかり机の上から教科書が落ちた音がしたが奈倉はどうせ友達が拾っておいてくれるだろうとそれを無視し足を早めた。奈倉の知り合いにわざわざ自分に会いにきてくれるような女の子なんていただろうか。心当たりを思い浮かべてみるがどの子も違うだろう。中学時代まで記憶を遡ろうとするがとたんに嫌な、消すことが出来るならば今すぐにでも消してしまいたいほど嫌な記憶が思い出され奈倉は考えるのをやめた。
門にまでいくとそこには門に寄り掛かるようにしてだるそうに空を見上げる女の子がいた。彼女の着る空のように青々しい制服は奈倉は見たことがない。短いスカートからでる白い足にどきりとしながら奈倉は声をかけようか迷った。回りには彼女意外に女の子などいなく多分彼女が奈倉を呼び出した子なのだろうと思うが、やはり知らない女の子に話し掛けるのは勇気がいるものだった。奈倉がどうしようか悩んでると彼女はふいにこっちをちらりとみた。その整った顔立ちはどこか昔見たことあるような、あまり思い出したくないような、
「やあ奈倉くん!」
「仁科……なんでここに」
「デートしようよ!」
戸惑う奈倉に仁科と呼ばれた彼女はいこ?っと楽しそうににこりと笑いぐいっと奈倉の腕を掴み走り出した。勝手にノリノリの彼女に奈倉は慌てて足を動かす。でーと、と呟く奈倉だけどその響きは全然楽しそうな予感がしない。突っ走る彼女に奈倉はまだ何も始まっていないのに疲れたため息をついた。
「ねえ奈倉くんはどれがいいと思う?」
可愛らしいアクセサリーやぬいぐるみなどの雑貨が並ぶ店内につれて来られた奈倉。女の子だらけの店内に一人浮く男の奈倉には視線が痛かった。きっと彼女とデートしている高校生と思われているのだろう。可愛いらしい彼女との仲を勘違いされるのはちょっとはいい気がするが、奈倉は早くも帰りたい気持ちでいっぱいだ。
「ねえ聞いてるの奈倉くん!」
「え?あ、うん……さっきから何を探してるんだ?」
「もうっ!奈倉くん知らないの?」
頭大丈夫?とばかりに眉を眉間に寄せ軽蔑したように奈倉を睨む彼女に奈倉はびくっと震えた。彼女の冷たい目は昔も向けられたことがある。奈倉と彼女、仁科千花は中学の時同じクラスだった。しかしそれだけではない。奈倉が起こしたあの事件のとき、千花はあの生物室にいたのだ。奈倉の思い出したくない記憶の中に千花はいた。奈倉は千花のことは嫌いではないのだがあのことを思い出すから苦手だった。
「今日は新羅の誕生日なんだよ!?誕プレ何がいいかなぁ」
そう言われた奈倉はぴしりと身体を固まらせた。楽しそうに笑う千花がその言葉により悪魔にみえた。うーん、と唸り猫のぬいぐるみを持ち上げる千花は「これでいっか!かわいいし」と完全に自分の好みでプレゼントを決めたようだ。レジに向かい会計を済ませる千花は何かを堪えるように手を握る奈倉にはまったく気づかない。
「奈倉くん?」
店をでると黙って下を向きつづける奈倉を不思議そうに千花は覗き込む。腕に抱え込んだ袋には新羅へのプレゼントが入っているのだろう。
「なんなんだよ…!」
「え?」
「そんなに俺に嫌がらせして楽しいかッ!!!」
急に声を上げた奈倉に千花はビクッと怯えたように肩を揺らす。怒鳴った奈倉は集まる池袋の人々の視線に居心地の悪さを感じながら千花の元から離れた。残された千花は呆然と奈倉の背中を見つめるが奈倉が気づくはずもない。
謝らなきゃ、動いてくれない足を叱咤して千花は急いで奈倉をおいかけた。走っても走ってもまったく縮まらない距離。奈倉は早歩きなだけなのに全然千花が追いつくことはなかった。
「…奈倉くんっ!!」
千花の大きな声に奈倉はやっと足を止めた。振り返ってはくれない奈倉に怒らせてしまったのだから仕方ないと千花は諦め奈倉に近づき力の篭った奈倉の手を握る。自分の手の上から重なり伝わってくる体温に奈倉はどきどきと心臓が音を立てるが今は千花の方を向くわけにはいかなかった。彼女が謝ろうとしてるのはわかったけれど、今千花を見たらまた爆発してしまうだろう。
「ごめんね奈倉くん」
「……」
「あたし、ただ奈倉くんとデートしたかっただけなんだけど、うまく誘えなくて……ごめん」
じゃあね、と離れていく体温に奈倉ははっとなり振り向くが千花はもう人込みに紛れた後だった。
「クソッ…」
君へ駆ける翼も無い
「はい新羅プレゼントっ!」
「あぁ!ありがとう千花。それで、奈倉くんに告白できたのかい?」
「……あたし奈倉くんに嫌われてるから。デートしたら嫌がらせかって言われちゃった」
「(?奈倉は中学時代千花のことが好きだったはず。千花は何か勘違いしてるのかな?まぁ千花には悪いけど奈倉くんが不快に思ったならいい気味だ)」
(110402)
不敏な奈倉くんと何か勘違いしてる主人公。
新羅誕生日という口実の元奈倉くん話でしたが新羅誕生日おめでとう。