ちゅ、なんてかわいらしい音じゃなくて唇と唇が潰されるようなぶちゅ、なんて色気のない音であたしは目を覚ました。重い瞼をゆっくりと時間をかけてあける。ぼやぼやとした視界の中で一番に飛び込んできたのはロニーさんのどアップだった。そしてそのまま顔を近づけられまたキスをされた。今度は唇が触れ合うだけのキスじゃなくてあたしとロニーさんの唾液が混ざりあって絡み合うようなキスだった。口の中を犯すロニーさんの舌をなんとか押し返そうと舌を伸ばすけれど寝起きで全然力が入らなくて、あたしからも絡めてるみたいになってしまう。零れそうな唾液をちゅう、と吸うとロニーさんは満足したのか唇をそっと離し、どっちのかわからなくなった唾液でいやらしく光る舌で唇を舐めた。

「……なんですか朝から」
「もう夕方だ」

 だからいいだろう? とばかりにロニーさんは言う。夕方、そんなに寝てしまったのか。起き上がろうと動こうとするが肩を押されあたしの身体はまたベッドのシーツへ逆戻りしてしまう。起きたばかりの身体はまったく言うことを聞いてくれずシーツの気持ち良さに瞼が落ちそうになる。抵抗しないあたしをいいことにロニーさんは手を胸に置きわさわさと動く。

「……発情期ですか」
「そうだといったら?」
「悪魔にも発情期ってあるんですね」
「今は千花と同じ人間だ」
「そうでしたね」

 そう言いあたしの内股を撫ではじめたロニーさんの手を掴む。力なんて入っていないのにあたしに掴まれた手は大人しく従った。なんなんだこの悪魔。油断も隙もあったもんじゃない。寝起きを襲うなんてどうかしている。はぁ、とあたしはため息をついて上半身を起こした。ロニーさんはあたしを襲うことはもう飽きたらしくベッドに座り何やら考えているようだった。前からロニーさんは何を考えているのかわからない不思議な人だ、なんて思ってたけれどついに頭がおかしくなったのね。肉体的にも精神的にも歳が離れてるあたしを襲うなんてよっぽど飢えているのだろうか。いいや、そこらの男より何百倍も整った顔立ちをしているロニーさんが女に飢えるはずがない。本当に彼は何を考えているのやら。

「花は好きか?」
「え?あぁ…そうですね、どちらかと言えば好きですよ。どうしたんですか急に」
「さあな」

 あたしの答えにロニーさんはふっと鼻から抜けるような笑いを零した。ほぼ無表情に近くはあるが少しだけ口の端をあげるロニーさん。なんなんだと如何わしげに睨むけれどあたしの方など一切みておらず意味のないことだった。何を見てるのだろうと視線を辿るとロニーさんはテーブルに置かれた花瓶の一輪の薔薇の花を見ていた。

「ああそれお客さんにもらったんですよ。綺麗ですよね」

 蜂の巣アルヴェアーレで働いていたらお客さんがくれた。くれた彼はよくあたしにプレゼントと言って物を押し付けてくる。あたしに好意があることはなんとなくわかっていたけれど彼は何も言わないしお客の好意を踏み躙るわけにもいかずあたしは笑って受け取っていた。凛としていてすごく綺麗な一輪の赤い薔薇。殺風景なあたしの部屋に唯一色を灯してくれているようだった。

「愛だの恋だの、人間はうるさいですね」
「お前も人間だろう?」
「悪魔とずっと一緒にいたから人間のことなんて忘れちゃいましたよ」
「…ふん、まあいい」

 ロニーさんはいつもの口癖を吐き捨てると腰をあげあたしの部屋を後にした。結局何をしに来たのだろう。首をかしげ考えてみるけれど1分後に意味のないことだと気づく。くわぁ、と欠伸をして着替えようとTシャツに手をかけると、がちゃりと部屋のドアが開いた。戻ってきたのはもちろんロニーさんで、その手には何故か赤いチューリップの花が一輪握られていた。カモッラのロニーさんとかわいらしいチューリップ、その不釣合さにあたしは思わず笑ってしまった。









花と屑








(110321)
薔薇の花言葉は愛情。
チューリップの花言葉は恋の宣言。
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