冷たい部屋。ひんやりとした空気を漂わせた生活感のないその部屋は大きな名古屋家の中であたしが一番気に入っている部屋だった。その部屋は全体的に寒色系のインテリアが多く他の部屋より冷たく感じて小さな頃、夏はよくちーくんとこの部屋で遊んでたっけ。その時は別にこの部屋が好きってわけじゃなかった。ただ涼しいから来ていただけ。好き、そう思いはじめたのは海生さんがこの部屋に絵を飾りはじめてから。その絵は特に上手いってわけじゃないんだけど、赤や黄色や白といった明るい色をいっぱい使っていてどうしてこの部屋にあるんだろうって不思議なくらいこの部屋に不釣り合いな絵だった。神楽さんは「センス悪いですね」と毒を吐いたけどその不釣り合いさがあたしは何故か好きにだった。


「千花ちゃん、やっぱりここにいたんだ」

「海生さんっ!今日はお仕事って聞きましたよ?どうしたんですか?あたしに会いたくなっちゃったんですか!」

「あはは」


 今日は海生さんは病院で会議って聞いていたから会えるなんてまったく思っていなかった。海生さんがあたしに会いたかった、なんてことはなくただ中止になっただけとわかってたけど海生さんに会えて探しにきてくれて、すごく嬉しくて自然と口角があがってしまった。ニマニマっとした笑みを必死で抑えようとするけれど止まらなくていつものマシンガントークでごまかした。海生さんはそんなあたしにいつみてもかっこいい笑顔を向けあたしに手を差し出す。ん?なんだろう? 意味がわからず首を傾げると海生さんは可笑しそうに笑い言った。


「一緒にお茶でもどうですか、お嬢さん」


 いまどきナンパをする時ですら言わないようなキザな台詞なのに海生さんが言うとすごく似合ってて、目を細めて笑う海生さんに心臓がばくばくと音をたてはじめた。殆ど無意識に差し出された海生さんの手をとる。声を出したいけれどぼぅっと海生さんに見とれてしまいうまく声を出せずにただ口をぱくぱくとさせるしかなかった。


「ははっ!顔が真っ赤だよ千花ちゃん!」


 自分でもそんなことわかってるよ…! 面白おかしく笑いながらあたしをからかう海生さんにただでさえ赤い頬がより熱をもったような気がした。いつもなら嬉しいのになんだか今は海生さんに見られているのが急に恥ずかしくなり、あまった手で頬を覆ったけど片方しか隠れず意味はなかった。


「何をやってるのですか」


 紅茶を運んできた神楽さんに怪しい目で見られてしまった。そりゃあ楽しそうに笑う海生さんと手を繋いで顔を真っ赤にさせてるあたし。遠目でみたらほんと何してるんだって感じ。でも神楽さんは相変わらず不機嫌そうだったけどちょっとだけ優しい表情をしていた。


「紅茶、冷めますよ」

「そうだな。おいで千花ちゃん」

「っおわぁ!」


 急に海生さんに手を引かれ足がもつれて転びそうになり変な声をあげてしまった。あぁ、色気のない声、今のは失敗。でも転ばなくてよかった、とため息をつく。そして安心すると自分が今どんな状況にいるのを知った。


「急にごめんね? 足大丈夫だった?」

「えっ、あ……っ!」


 海生さんの心配そうな声があたしの頭の上から聞こえる。なんで、気がつくとあたしの視界は真っ黒でそれは海生さんが着ていたスーツの色だった。あたしが転ばずに倒れ込んだ先は海生さんの胸の中だったらしい。そう自覚すると海生さんの体温が、匂いがすぐそばでわかり嬉しいんだけど恥ずかしくなる。いつもあたしから抱き着いてるくせに何照れてるんだろう……そう思ったけどいつもとは違うことに気づく。あたしの背中と腰に海生さんの手があってその両腕が倒れないようにとしっかり支えてくれていた。


「えとっ、もう大丈夫です……よ?」

「そっかよかった」


 安易にもう離してくれて結構ですよ……?と伝えたはずなのに海生さんはまだあたしを離してくれなかった。本当に嬉しいんだけどあたしはもうパンク寸前。海生さんの息がかかるくらい近い距離に熱がでるんじゃないかってくらい全身が熱くて頭ががんがんする。あたし、海生さんが好きすぎて死んじゃうんじゃないのってくらい。そんなあたしに何を思ったか海生さんはあたしをもっと抱き寄せる。


「千花ちゃん、すごくどきどきしててかわいいね」


 耳元で囁かれたその声はいつもより低く色気を含んでいて、海生さんの息が耳にかかる。あたしは体の力が全て抜けていくのがわかった。







だって世界一弱い








「千花ちゃん腰抜けちゃった」
「……旦那様、」
「だってかわいいからさぁ」
「……(かわいそうに)」





(110319)
女子高生を弄ぶ中年の図
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