ふと廊下をすれ違った時どこかでみたことあるような、というか馴れ親しんだ顔を見かけた気がした。それは懐かしいというにはつい最近まで毎日のように会って話しをしていた顔なじみで……。


「ちーくん?なんでここに?」

「やぁ千花。転校したんだよ、手紙にも書いてあっただろ?」

「いやどこによ」


 いつも通り飄々としたちーくんに思わずツッコミをしてしまった。まさかちーくんがうちの学校にいるなんて思わずあたしはびっくりして口をぽかーんとアホっぽく開けてしまった。対するちーくんは全然動揺した様子もなく憎たらしいまでに海生さんにそっくりの笑顔をあたしに向けてくる。都ちゃんとまろんちゃんがどういう関係?と不思議そうにあたしとちーくんを見比べながら歩いていた。

 先日、実の父ではなく幼なじみのあたしに妙な手紙を残し姿を消した幼なじみの名古屋稚空、通称ちーくんは現在行方不明だった。手紙の内容は「怪盗ジャンヌに会いに行くから親父をよろしく」と一文だけでその手紙、というかメモを見た時あたしは不謹慎ながら邪魔がいなくなった……!と喜んだ覚えがある。ちーくんがいなくなったということは名古屋家には海生さんだけ、つまりいつでも襲いにいけるということですね? 息子さんに「よろしく」なんて頼まれてしまったんだから、あたしなりに「よろしく」してあげようと揚々と海生さんのお家に乗り込んでいったのだけど、海生さんはすごくちーくんのことを心配していて、結局ちーくんがいなくてもあたしの入る隙はないんだと再確認してしまった。すっごく悲しいことだけど海生さんが何度もあたし以外の女と一緒にいるところを見てきたあたしはもうこんなことではへこたれない。寧ろ年齢の離れた女の人ばかりだからあたしにもチャンスがあるはずって思ってるよ。


「元気にしてるの?ご飯食べてる?」

「?大丈夫だよ。千花が俺のこと心配するなんて珍しいな」

「海生さんが心配してたから」

 きょとんと目を丸くしたちーくんにそう言うとちーくんは「だろうな」って苦笑いした。ちーくんとは幼なじみだしそれなりに好きだけど海生さんを心配させるちーくんは嫌い。あたしの脳みそは本当に海生さん一色なんだ。ちーくんはそんなあたしの頭を撫でる。そしていつも少しだけ悲しそうな目をするんだ。


「ちーくんのくせに生意気」

「千花のくせにそんな泣きそうな顔するなよ」

「あたし、いつ泣きそうな顔をしたの」


 笑ってるよ、って言うとちーくんは困った顔をした。その顔やめて、海生さんの顔を思い出すから。本当に、憎たらしいまでに名古屋稚空という男はあたしの愛しい人にそっくり。飄々としたところも、バカなあたしを見捨てられない優しいところも。


「海生さんを困らせないでよ」

「そういっていつも親父をからかってるのは千花じゃないのか?」

「あたしはいいの」

「ひどいジャイアニズムだな」





ぎしぎし







 そういってちーくんは声を出して笑ったからあたしも釣られて笑った。そしてあたしたちは「じゃあね」と別の方向へいく。いつからだろう、ちーくんにあんな顔をさせたのは。






110318
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テーマ「人外ファンタジー」
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