「ねえ仁科千花先輩って知ってる?」

「新体操部の幽霊部員でしょ? すっごくかわいいから有名だよね」

「かわいいよねー! じゃあ仁科先輩がすごく新体操上手いのは?」

「えっ!初耳! もしかしてまろんよりも上手いの?」

「らしいよ。でもなんで幽霊部員なんだろうねー」






 なんで部活にいかないの? ってよく聞かれるけれどめんどくさいからという理由ではないとだけいっておく。本当の理由は「めんどくさい」より酷いから絶対に言わない。部活には1ヶ月に1回くらいしか顔を出さないからパッキャラマオ先生にも怒られちゃうけど後輩のまろんちゃんや都ちゃんが頑張っているから部活は安泰だと思うの。あたしには放課後の時間は毎日やらなければならないことがあるんだ。


「おはようございます海生さんっ!」

「もう夕方だよ? 千花ちゃんは今日も元気だねー」

「はいっ! だから結婚しましょ!」

「僕には奥さんが、」

「ちーくんにこの前また別れたって聞きましたよ?」


 だからいいでしょ? と明らかに困った様子の海生さんの腕に自分の腕を絡ませる。あぁ海生さんの匂い…! ふわっと香る爽やかで上品な香水の匂いは海生さんにすごく似合っていてこの香水は海生さんのために生まれてきた海生さんの匂いなんだと思ってしまう。思わずくんくんと鼻を鳴らしてしまうが決してあたしは変態ではない。


「千花ちゃん胸が当たってるよ」

「当ててるんです」


 それは困ったなぁと眉を下げて笑う海生さん。あんまり困らせたくないんだけどあたしは海生さんの困った顔が好きなんだ。だからちょっとしたいたずら心でいつも海生さんを困らせてしまう。あたし以外の誰かが海生さんを困らせてたらものすごく怒るけれど。一方的な独占欲なんてことは分かっている。でもあたしは海生さんが好きで好きで好きで、臆病なあたしは冗談交じりに愛を伝えることしかできないの。海生さんがあたしをみてくれるならあたしは何だってする。子供っぽいなんてわかってるし笑えばいいと思う。そしたら童顔であたし以上にいたずら好きな海生さんとお似合いでしょ? って笑ってやるの。


「千花ちゃんそろそろ大会じゃなかった?」「海生さん応援しに来てくれますか!?」

「行こうかな〜」


 千花ちゃんの演技楽しみ、と笑う海生さんの笑顔にどくんどくんと心臓が音を立てる。海生さんに触れている腕と手からぶわりと熱いものが流れてくるような気がして思わず腕を離した。そしてすぐあぁ、離すんじゃなかったと後悔する。ふわりと海生さんの匂いがまた香った。
 本当は大会なんてでる気はなかったけれど海生さんが来てくれるならでよう。まろんちゃんには悪いけれど今年の優勝はあたしが貰うね。海生さんは美しくて綺麗な物が好き。新体操をしているのだって海生さんがテレビでやってた新体操の選手を見て「美しいな」って言ったから。海生さんに好かれて貰えるなら、そんな不純な理由でやってるなんて皆が知ったら呆れられるのだろうなあ。


「海生さんが応援してくれるならあたし、がんばっちゃいますね!」

「はは、千花ちゃんの演技はとても綺麗だから楽しみにしてるよ」






月と愛妻家








 海生さんに綺麗と言われたあたしの顔は見事に真っ赤になってしまった。





(110311)
ちーくん→稚空
夢主は稚空の幼なじみみたいな感じです
 
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