「バレンタインだね」

「なに? チョコでも作るの? 千花が?」


 意外すぎて地球がひっくり返るんじゃない、なんて憎まれ口を叩く青葉をこれほど嫌いと思った日はない。青葉ってどうしてそんなに無神経に私の心をちくちくと刺していくの。言葉の暴力は身体的には実害はないけれど、心に突き刺さり塵も積もればなんとかなんだから。今私の心の中は可愛さ余って憎さ百倍だよ。


「青葉には絶対にあげないから」

「別にいいよ。舞流と九瑠璃ちゃんがくれるっていってたし」

「あっそ!」


 今度は憎まれ口でも売り言葉に買い言葉でもなく、本心からそう思ってるようだった。私の方なんて一度も見ず携帯をいじりメールを打つ青葉は私のことなんて本当にどうでもよさそう。それにまたでた。『舞流と九瑠璃ちゃん』。今までずっと同じクラスだった幼なじみの青葉と私は来良学園に入学して初めてクラスが別れた。別に隣のクラスだしいつでも遊びに行ける。そう思って隣のクラスを覗いた私は声がでないほどびっくりしたのだ。あのヘタレ青葉が女の子と喋ってる!? しかも可愛い子!おっぱい!心の中の叫びが口からでなくて本当によかったと思った。
 その日から青葉が女の子二人と仲良くしている所を見かけるようになった。青葉と話していても二人の名前を聞くようなったし。私としては面白くないことばかりだ。バレンタインだって誰からも貰えない可哀相な青葉にせっかく私が気を使って今年は作ってあげようという気になったのに。舞流ちゃんと九瑠璃ちゃんがいれば私なんてどうでもいいんだ。なんていじけてみるけど本当にその通りだ。あんな可愛い子がいたら私みたいな普通の中の普通なんてどうでもいいに決まってる。ああ、卑屈になんてなりたくないのに。これもみんな青葉のせい!


「私帰る!」

「材料でも買いに行くの?」

「うっさい! 今年は好きな人にあげるの!」

「へぇ、ありがと」


 青葉の言葉に帰ろうとバックに伸ばした手がぴたりと止まる。ぎぎぎ、と動かない体を無理矢理動かして青葉を見ると何故か青葉も私の方を見ていた。さっきまでメールしてたじゃん!どうせまたあの二人でしょ。私のほうなんてみないでずっと携帯の画面みてにやにやしてればいいじゃない。なんでこういう時だけ、


「青葉にはあげないっていった」

「でも好きな人にはあげるんでしょ?」

「だから、」

「だから俺でしょ。千花の好きな人って」








好きの反対の反対












 疑問じゃなくて確認するような言い方がムカつく。でも青葉の赤くなった頬に免じて許してあげるよ。


(ビターがいいかな)(しらん!)
(110211)
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