私と付き合っているのに弥勒さんは女の人に声をかけるのをやめてくれなくて、いつも私は不安でいっぱいだった。弥勒さんは女うけのいい整った顔をしているし皆に平等に優しくて誰もが惚れちゃうような人だから、誰彼かまわず声をかける弥勒さんを見ると胸が苦しくなる。今弥勒さんが話してる女の子、弥勒さんのこと大好きだよ。弥勒さんのセクハラにも頬を染めて熱い視線と思いを弥勒さんに送ってる可愛らしい彼女を見ているとやっぱり私みたいな可愛くないヤツなんかより彼女みたいな素敵な女の子の方がいいんでしょ? なんて思ってしまう。
 いいんでしょ? じゃなくていいに決まってる。この時代にやってきて弥勒さんに恋して、でも気持ちを伝えることができなかった臆病な私。そんな見ているだけの私の気持ちに気づいた弥勒さんはニコっと蕩けるような笑顔で私に「私も好きですよ」なんて言ってくれた。私は何も言ってないのに弥勒さんは私の気持ちがわかる。そんな弥勒さんだから話しかけている彼女の気持ちもわかっていながら話しているんだろう。


「私の子を産んでくれませんか?」

「まあ法師様ったら……!」


 彼女の手を握り微笑む弥勒さん。そんな弥勒さんに赤い顔をもっと赤くする彼女。見ている私の存在に気づかない二人。耳と目を覆いたくなる光景に胸がぎゅっと締め付けられたような感覚が走り目と鼻の奥がじりじりと痛む。私と弥勒さんって付き合ってるんじゃなかったっけ。弥勒さんが女の子に話しかけている場面を見るといつも思い浮かぶ疑問。自問しても答えは「多分」しかでない。珊瑚ちゃんやかごめちゃんに聞いてみると「千花ちゃん、」と私の名前を呼んで頭を撫でてくれるか抱きしめてくれるだけで何も答えれない。
 もしかしてそれは私の妄想で弥勒さんは本当は私のことなんか1ミリも好きじゃなくて私たち付き合ってないのかな。そういえば私、弥勒さんにセクハラされたことない。誰彼構わずセクハラしている弥勒さんだけど私にはしたことがない。やっぱり私は魅力ないんだ。されたいわけじゃないけど。嘘、されたいんじゃなくて弥勒さんに触りたいし触ってほしい。キスだって、エッチだってしたことがない。精々手を繋いだくらいで弥勒さんは私に触ってこようとはしない。どんだけ魅力ないんだろ、私。仲間だから同情してくれただけだったのかな。じわっと涙で視界が滲む。私と弥勒さんって、何?


「千花? 何しているのです?」


 気がつくと目の前に弥勒さんがいて驚いて思わず後ずさってしまった。さっきまで一緒にいた女の子はどうやら別れたようで弥勒さんの隣には誰もいなかった。何も答えない私の顔を不思議そうに見ている弥勒さん。「どうかしました?」なんて優しい声に涙がでそうになるから見られないように私は下を向いた。


「弥勒さん」

「? はい」

「接吻して」

「は?」


 意味がわからないといった声色が私に降り注ぐ。そりゃあ「好き」の一言も言えない私がいきなり接吻しろなんていったら驚くだろう。もうなんだかどうでもよくなっちゃった私は思いきってしまった。これで弥勒さんがしてくれなかったらもう弥勒さんのことを好きでいるのは止めよう。同情で付き合ってくれていた優しい弥勒さんを振り回すのはこれで最後にしよう。勢いよく顔をあげ弥勒さんをじっと見てからキスを待つよう目を閉じた。


「……千花、そういうのは」


 いくら待っても弥勒さんの唇は私の唇に当たることもなく弥勒さんは困ったような声をだした。やっぱり、そうだよね。目を開け困った表情の弥勒さんが目に入ると涙が一気に溢れてきたから私は急いで下を向いてなんとか零れないよう着ていた着物をぎゅっと掴み堪えようとする。


「……ごめんね弥勒さん! ありがと……!」


 ちょっと声が震えてしまった。でももうそんなことはどうでもよくて、困った表情も、笑った顔も、女の子と話す姿も、私に優しくする弥勒さんを見たくないから勢いよく振り返り走りだす。弥勒さんに涙を見られないよう頑張ったけど振り返る時にぽたりと零れてしまった。


「千花っ! 待ちなさい!おい待て!!」


 弥勒さんの呼び止める声が後ろから聞こえるから私は全力で逃げた。ぼたぼたと涙が落ちていく。町の人が何事かと私を見てくる。バカみたいに涙を流しながら全力走る私は本当に惨めだろう。なんて悲劇のヒロインぶってみるけど実際はただ一人勘違いして一人舞い上がった私のせい。走りながら頬を伝う涙を手で拭う。走って涙を流して脳に酸素が回らなくなってきた。いつの間にか町の外にきていた。ここなら誰もいないだろうと足を止めハァハァと乱れた息を整えようとする。


「私って、ほんっと、ばかだなぁ……っ」

「その通りだ……!」

「っ!!」


 ぽつりと呟いた言葉に聞き慣れた大好きな声が聞こえたと思ったら後ろから抱きしめられ驚き肩を揺らす。耳元にハァハァと私と同じくらい乱れた吐息が当たり心臓の音がばくばくからどきどきに変わる。近くにいるときにいつも香った彼の匂いがより近くに香り私はまた大粒の涙を流す。誰かなんて見なくってわかる。


「人の話しは、最後までききなさい」


 弥勒さんはそういうと私を離し私の肩を掴み向き合う。ああ初めて抱きしめてくれたのにもう終わりなの。涙の量がまた増える。真っ正面から泣いている顔を見られたくなくて下を向こうとするけど弥勒さんの手が私の顎を掴み無理矢理顔をあげられた。弥勒さんの瞳にぼろぼろと涙を零す私が写っているのが見える。


「私は、千花とのことは大事にしたかったのですよ。軽々しくしたくなかった」


 そう言って弥勒さんは私の頬を伝う涙を手で拭う。何度拭ってもとまることのなかった涙は弥勒さんの手であっという間に止った。赤くなった私の目をみて「不安にさせて、泣かせてごめんなさい」と困ったようにでも優しく弥勒さんは微笑む。


「……弥勒さんと私って、なに?」


 そう私が問うと弥勒さんはきょとんと目を丸くさせた。そしていつも通り優しく笑い、私にキスをした。弥勒さんの唇は優しくてあったかくて私はまた涙が溢れる。そっと触れるだけのキスなのに私と弥勒さんの唇は全然離れなくて時間が止まったように思えてしまった。そんな長いキスが終わり弥勒さんの唇が離れる。そしてそのまま私の耳元に唇を近づけると「    」と優しく囁いた。








彼女は俺の、「    」です











(しかしおなごにあのようなことを言わせるなんて俺はとんだクソ野郎だな……)(弥勒さん…!)(でも接吻を待ってるときの千花、かわいかったですよ)(あ、あれは……っ!弥勒さんのバカ!浮気者!)(あ、千花!足はええ!)
(110122)
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