「千花、なにしてるぴょん?」

「甘い匂い」


 甘い匂いにつられたのか犬と千種がキッチンに入ってきた。あいにく黒曜ランドのここはキッチンなんて綺麗なものではないのだけど。じりじりっとオーブンが焼ける音がする。もうそろそろだろうとタイマーを見るとちょうどいい時間だった。チンッとオーブンが鳴った。


「……ケーキ?」

「うまそー!!」


 キラキラした目で見てくる犬に苦笑いをしてケーキにクリームを塗ってゆく。千種は不思議そうな顔をしてケーキと私を見てきて少し緊張しながら生クリームを塗った。


「……骸の、ね。誕生日だから」

「あぁ……そう」

 今日は6月9日、骸の誕生日だ。自分でつけたのか本当に誕生日なのかは知らないけれど、せっかく覚えていたのだから何もしないのはあれなのでケーキを作ってみることにした。私にできることなんて料理くらいだし。骸は食べてくれるのだろうか。甘いものは好きな方だったっけ?そもそも骸は自分の生まれた日をよく思っているのだろうか。過去のことを思い出して少し憂鬱な気分になる。骸は祝われることを嫌がるかもしれない。骸と犬たちと一緒に食べようと思ったけど、もしそうだったら少し悲しいがこのケーキは捨てよう。骸が嫌がることはしたくない。なんて生クリームを塗ったケーキにイチゴを乗せながら考えていた。


「骸…?」


 箱に包んだケーキを後ろに隠し骸の部屋にノックをして入る。骸はソファーに座りなんのかはわからないけれど束になった資料をみていた。邪魔しちゃったかな、と思い少し申し訳なくなる。話かけたはいいものの骸の纏う空気は冷たく視線は私を見ることもなく書類に釘付けだった。やはり邪魔してしまったらしい。まだ今日は終わらないんだしまたあとで来ようと思い一歩足をひく。


「ごめんね、邪魔したみたいだね」

「いえ、で? なんですか? できれば早くしていただきたい」


 出ていこうとするがイライラした声の骸にせかされ慌てた。タイミングが悪かったなあ……なんて後悔するけれどもう遅い。とりあえず一言とケーキだけ渡して部屋に戻ろう。


「あ……うん。えっと骸、誕生日、」

「僕誕生日って嫌いです」


 骸は私に一切視線を向けることもなくそういった。あぁ、やっぱりなあ。なんて微笑が漏れる。やっぱり無駄だったなあ、わかっていたけれど結構なショックだった。少し涙がでそうなのは気のせいだ。でもここでそのショックを顔に表すのも骸に迷惑だろうからなるべく笑顔で笑う。


「そうだよね、うん。じゃあ邪魔してごめんね」


 少し声が震えてたかもしれない。骸はそういうところに敏感だから気づかれたかもと思い骸が何かいう前に部屋を立ち去った。部屋を出てキッチンに戻ってくると誰もいないことに安心したのか目に涙が浮かぶ。ばかだなあ私、自分で勝手にしたことなのに。自分の情けなさにより涙がでてくる。結局無駄になってしまったケーキを机に置き広げる。一口食べてみると口に甘しょっぱい味が広まった。その味がより気分を落としてゆく気がして食べるのをやめた。どうせ残していても骸には不愉快になるだろう。犬たちにあげるという手もあるが、誰かの誕生日ケーキの残りをもらうなんて嫌だろう。せっかく作ったが捨てることにした。
 ドサっと残ったケーキがゴミ箱の中に落ちていく。


「千花?」


 骸の声が聞こえはっと振り向くが、自分の頬が涙で濡れていることに気づき骸に再び背を向ける。あぁ最悪のタイミングだ。骸は書類の整理が終わって、休憩しにキッチンにきたんだろう。せっかくの休憩なのに自己嫌悪でいっぱいの泣いてる私がいたら迷惑だろう。さっきもいったじゃないか、自分。骸の嫌がることはしたくないと。急いで涙を止めようと目をこすり骸に向けて言い訳をする。


「目にゴミが入っちゃった…。ごめんなさい、邪魔だよね」


 もっといい言い訳たくさんあっただろうに、我ながら下手な言い訳だ。もちろん骸がそんな下手な嘘にひっかかるわけもない。このままいるのは迷惑だ、と判断しキッチンを離れようと足を出した。


「どこへいくんですか?」

「……っ」


 しかし骸に手を掴まれ足は止まってしまった。思いっきり涙顔を見られ恥ずかしさで顔が火照るのがわかる。


「それ…」


 骸はケーキの入ったゴミ箱を指差しいった。あぁ見られてしまった。せっかく隠したのに、骸にばれてしまえば元も子もないのに。自分の失敗に涙どころか笑いすら漏れてくる。


「千花、こっちを向いてください」


 そんな怖くて見れるわけないじゃない、と思い目をそらすけれど、骸は私の顎に手をあてて無理やり自分のほうへ向かせる。そして手を引かれ――キスをされた。突然の出来事に目を見開く。びっくりしすぎて涙は引っ込んでしまったようだ。息ができないほどに激しく口づけをしてくる骸に酸欠になる。


「……っはぁ、」

「甘いですね」


 酸素を求め激しく息をする私を尻目に骸は優しく微笑そういった。甘い?何が。骸のいってる意味がわからないが私は息を整えることでいっぱいいっぱいで言葉を発せれなかった。


「ケーキ、おいしいですよ」

「えっ……」


 ケーキなんてもうないよ。途切れ途切れの言葉でそう伝えると、骸はクスッと笑い私の頬に手をあていった。


「ここ、ついてますよ」








甘いだけのキスをして










骸さんハピバ
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