風呂から上がった苗字さんは赤い頬に濡れた髪でなんだか色っぽく見えた。貸してあげた俺のジャージは小柄な苗字さんには大きいらしく裾が余ってしまっている。なんか、こう、独占欲を掻き立てられるような格好やな。俺重症かもしれへん。苗字さんの一挙一動に一々心臓は早く音を立てた。エロ魔神と言われとった俺がこないなことで。ブンブンと頭を振り邪念を払う。初恋に悩む中学生やないんだから。いや間違ってないかも、

「ってちゃうわ!ちゃうんや!」
「?何が?」
「や、なんでもないさかい」
「変なの。ジャージありがとね。志摩くんの匂いがするよ」
「く、臭いってことなん!?」

 ショックやわー!と頭を覆うと苗字さんは違うよと笑った。いい匂いだよ?なんていつも通りの可愛らしい笑顔で苗字さんは言う。思わず熱くなった頬をばれたくないから顔を隠した。こないなの、苗字さんが好きいうこと自覚しはるしかないやん。確かに美人やと思ってたけれど、それだけだったのに。

「お兄さん達は?」
「仕事やて。電話来て呼ばれとったわ」
「そっか。雨の中大変やね。志摩くんのお兄さん、すごくかっこよくてびっくりしちゃったよ」

 多分苗字さんが言ってるのは柔兄のことだろう。柔兄は女の子にモテる。確かに弟の俺から見ても柔兄はかっこいいと思う。知り合いにも柔兄のことを褒められたりするしそれは嬉しい。だけど苗字さんが柔兄を褒めるのは嬉しいなんて感情よりも嫉妬の方が強くて胃の中がムカムカとしてしまう。しかしそれは苗字さんの次の一言で吹き飛んでしまった。

「志摩くんにそっくりでかっこよかった」
「っ、え?」
「…や、えとその、ごめん忘れて」

 変なこと言ってごめん、苗字さんは顔を真っ赤にしていった。これはどないな意味なんやろうか。二人して顔を真っ赤にしてしまい変な空気が流れる。空気を変えるとかごまかすとかは俺得意やったはずなのに、なぜかできない。苗字さんはごまかすように跳ねた髪の毛を撫で付けるよう直し立ち上がった。

「あ、雨も弱まってきたようやしそろそろ帰ろっかな!」
「じゃあ送ったる」
「いいよ悪いし!」
「大丈夫や、さすがの俺も送り狼にはならへんから」
「ふふ、なんやそれ」

 苗字さんはおかしそうに笑うとじゃあお願いしますと頭を下げた。窓を見ると雨は大分弱まっていてふと俺はあの猫を思い出した。

「ちょお待ってて?おかんにあの猫飼えへんか聞いてくるわ」
「!うん!」

 苗字は目を真ん丸くしながら大きく頷いた。うちは誰も猫アレルギーじゃかったし、世話をちゃんとするっていったら多分おかんもいいと言ってくれるだろう。うちで飼ってあげれれば苗字さんも喜んでくれるだろうし。すっかり苗字さんにベタ惚れになってしまった自分に苦笑いを零した。苗字さんの気を引きたいがために、なんて下心は黙っておこうと思う。
















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