じりじりと照り付けるような日差しに目眩を覚える7月の夏。少し日に当たるだけで汗は吹き出てきて不快だ。夏はいろんなイベントがあり楽しみには変わりないけれど、この暑さや虫の多さは納得いかない。みーんみんみーん。蝉の声は鳴り止むことなく聞こえた。「世界中の虫が一瞬で消えたら俺今すぐ裸で踊ったる」そういうと子猫さんに「志摩さんソレただの変態ですよ」と言われた。坊の冷たい視線が痛かったからごまかすようにアハハと笑う。

「志摩さんの虫嫌い治りませんね」
「治す気もあらへんわ!あない気持ち悪いもん、よく皆平気やなぁ思いますわ。ほんま失禁しますよ」
「一生ヘタレやな」

 ヘタレちゃいますわ!そう言うと後ろからくすくすと俺達以外の笑い声が聞こえた。振り返れば同じクラスの苗字さん。美人で男子からも人気があって、もちろん俺も仲良くしたいと思っている。目が合えば苗字さんは気まずそうに苦笑いをした。

「ごめんね、面白かったからつい」
「いやぁ、苗字さんに笑って貰えるなら俺虫嫌いでよかったわー」
「何いってんねんアホ」
「いた!なんで殴りはるんですか!ひどいわー、ねえ苗字さん?」

 え?そうだねと苗字さんはまた声をだして笑った。笑われたことが恥ずかしかったのか坊の頬は少しだけ赤らんでて俺も笑ってしまう。「苗字さんは笑うとかわいいなぁ」と言うと「どうせいつもはぶさいくやもんー」と勘違いされてしまったので慌てて弁解した。

「ちゃういますよ!普段は美人いう意味や」
「お世辞でもありがとー。3人とも今日は雨降るらしいさかい早う帰りなよ?」
「はい気をつけてます。ほな苗字さんまた明日」
「じゃあな」
「ばいばい苗字さん!」


 ほんとちゃうさかいー美人やでー!手を降ると苗字さんはバイバーイと笑いながら大きく手を振替してくれた。苗字さんの笑顔は本当に綺麗でかわいくてこの暑さを吹き飛ばすくらい爽やかやなーなんて思った。










 苗字さんの言った通りあんなに暑かった日差しは消え雨が降り出した。寄り道もせず早く帰ったというのに俺は今コンビニに来ていて傘は持っていない。どないしよー走って帰るしか、と腹を括りコンビニをでた。柔兄たちがアイス食いたいとかわがままを言うからこんな濡れる嵌めになったんや。あの時グーをだしてしまったことを後悔した。貯まりだした水溜まりに気をつけながら走る。車がこないか右を見て左を見ると見知った顔があり足を止めた。苗字さんや。早う帰りなよーと笑った苗字さんからは想像できない無表情な横顔にどきりと心臓が跳ねる。苗字さんは雨に濡れながら、道路に置かれた差したままの水色の傘を見つめていた。

「苗字さん?風邪ひいてまうよ?」
「!志摩くん、」

 ビクリと顔をあげた苗字さんの表情は悲しげだった。傘、どうしたのだろう。不思議に思い置かれた傘を見るとダンボールがあり、その中には真っ白の子猫がいた。

「……捨て猫みたい」
「こないちっさいのに、」
「可哀相やったから思わず傘あげちゃった」

 本当は飼ってあげたいんやけど、うちマンションなんや。あははと苗字さんは笑った。苗字さんの長い髪を伝い雨はぽたぽたと落ちる。それが涙みたいに見えて俺は思わず苗字さんの手をとった。子猫が小さくにゃあと鳴いた気がした。

「うちすぐ側なんや、雨強うなってきはったし急ご」
「うん、ありがと」

 ぎゅ、と繋いだ苗字さんの手は冷たくてびっくりした。どんどん強くなっていく雨は、久しぶりに降ったから張り切ってるんやなぁ、なんて。本当は今すぐにでも苗字さんを抱きしめたいと思った。でも手を繋ぐことしかできない俺はやっぱヘタレなのかもしれへん。そんなくだらないことを考えながら走る。7月の雨は温かった。














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