教科書をぺらぺらめくりながら淡々と早口で魔法史について話す教授の話をいったい誰が聞いているというのだろう。魔法史の授業はグリフィンドールとスリザリンは一緒に受けている。仲の悪いグリフィンドール生とスリザリン生が合同に授業を受けることは多々あるがいったい誰がこんな編成を組んだのだろうと問い詰めたくなるほどどの授業でも両寮は対立しあっていた。しかしこの魔法史の授業はどうだろうか。教室を見合わしてみても睨み合っている生徒などどこにもいない。代わりに殆どの生徒が机に突っ伏し寝ているのであった。起きている生徒、といっても皆こくりこくりと船を漕いでいて今にも寝てしまいそうだ。そんな中ビルも例外ではなくうつらうつらと穏やかな眠気に誘われていた。生徒をまとめるはずの教授は教科書に夢中でちらりとも生徒たちを見ようとしない。隣で爆睡している千花の可愛らしい寝顔を見てビルはくすりと笑顔を零し、このまま寝てしまおうかと落ちる瞼に抵抗するのをやめた。




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「ない!!!!」

 教室に響き渡る大きな声にビルは驚き目を覚ました。どうやら授業は終わってしまったようで教室にはもう生徒はいない。教室に残っているはビルと、大きな声をあげた千花だけだった。

「ビルッ!どうしよう!ないの!」

 酷く焦ったようすの千花にビルは眠気を吹っ飛ばす。こんなにも千花が動揺して大きな声をだすなんて一体何があったのだろうか。

「何がないんだい?」
「花……ないの、」

 落ち着けとばかりにビルが千花の頭をポンポンと二度叩くと千花は目に涙を溜め泣きそうな表情をした。ぽつりと呟かれた言葉は切なさと消失感でいっぱいだった。花、千花が毎日付けていた花の髪飾りだろう。可愛らしい彼女に負けないくらい可愛らしい花の髪飾りは今は千花のどこにも見当たらない。

「授業前はあったんだよね。となると……とにかく探そう」
「うん……っ」

 慌てて教室の隅々を見回り探す千花は必死だった。ビルは千花があの髪飾りを大事にしていたことは知っている。あの髪飾りは千花が小さな頃お世話になった病院の先生が友達ができるお守り、と千花くれた髪飾りだった。あれを無くすわけにはいかない。目の端に溜まった涙をぐいっと指で拭い千花は真剣な目をして隈なく探した。




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 しかし髪飾りはどこにも見当たらず、千花は鼻がつーんとなるのを感じたがどうするこもできず涙は溢れだしほろりと頬を伝った。伺うようなビルの視線を感じながら千花は着ていたセーターの袖で涙を拭う。泣いたって見つかるわけじゃない、眉間に力をいれて泣くのを堪え千花は魔法師の教授に髪飾りを見かけたら私に渡してくださいと頭を下げた。まっすぐ教授を見つめ真剣な目をして頼む千花の隣にいたビルは千花の頭を撫でた。見つかるよ、なんて軽はずみに無責任なことは言えないがしかし慰めるように撫でてしまった。ビルの行動に千花はいつも通り怒るとビルは思ったが千花はビルの手を払うことなく大人しく撫でられていてビルはずきりと心を痛めた。

「廊下も見てみよう。俺も手伝うから」
「ビル、ありがとう」
「……お礼は見つかってからね」


 弱々しい声を出す千花にビルはニコリと笑った。今日の授業はもう終わりだったからいくらでも時間はある。教室になければ校内を探すしかないだろう。しかし授業前はしっかりあったはずの髪飾りが授業後なくなり教室にもない、あまり考えたくはないが誰かが盗ったというのも一理考えられるだろう。そんなことは考えたくはないけれど……とにかくまずは校内を探してからだ。

「ビル!」
「エミリー……」

 千花の手を引き教室をでてきたビルに話し掛けてきたのはビルの彼女であるエミリーだった。

「あのさ、最近っ、」
「ごめん急いでるんだ。またね」

 何やら焦った表情で話かけたエミリーをビルは一瞥しそう告げると歩きだす。少し悔しそうなエミリーを横目に千花はビルに引かれエミリーの横を通り過ぎようとした。しかしぼーっとしていたためか千花の腕がエミリーの肩に当たってしまった。その拍子に何かがカツーンッと落ちた音が響く。千花の長いツインテールの黒髪とエミリーのブラウンのふわふわとした髪が揺れた。

「ごめんなさ――」
「……っ」

 落ちたものを見て千花とエミリーは二人同時に息を飲んだ。


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