暗い雲に覆われた池袋に冷たい雨が降り注ぐ。傘をさして歩くサラリーマンや、制服姿の女子高生。中には同じ色をまとったヤンキーというべきであろうか、不良らしい少年もいた。そんな、たくさんの人が集まる池袋に一人傘もささず、ずぶ濡れのままただ一人ぽつんと異様な雰囲気を持つ少女がいた。染めたにしては傷んだ様子もなく、誰もが目を奪われるような綺麗な銀色の髪は雨に濡れ水分を多く含み下を向いている彼女の顔をより隠していた。彼女の着ている洋服は中世ヨーロッパを思わせるような黒いドレスで彼女の銀髪をより魅せていた。道行く人はそんな浮世離れした彼女を避けるように歩く。

「兄様、」

 日本語じゃない言語でぽつりと呟く。彼女の切なげな声はアスファルトに当たる雨の音にかき消されるほど小さく誰の耳にも届かず消えた。呼んでみるが返事など返ってくるわけがない。わかってはいたが実際返ってこないとひどく悲しくなり少女は涙が出そうになるのをぎゅっと唇を噛み締め堪える。

「兄様っ」

 泣きそうな声をさっきより大きく出してみるが彼女の周囲を歩いていた若いサラリーマンが少しびっくりしたように彼女を見てくるだけあった。
 彼女はこの池袋に一人きりだった。小さい頃は病弱いつも引きこもりがちだった彼女に会いに来てくれたり話でしか聞いたことがないような場所に連れていってくれた友人たち、彼女が笑えば一緒に笑ってくれた、彼女が困っていればすぐに解決してくれた、彼女が悲しめば彼女の頭を撫で優しく抱きしめてくれた、彼女の唯一愛する兄がいない。池袋を離れ世界中どこを探しても彼女の大切な人はいない。彼女は世界に一人きりだった。
 彼女に降り注ぐ雨は止まない。いっそのこと一生止まなければいい、そうすればこの涙も隠せるのに。彼女はそう願う。しかしそんな彼女の願いは叶わず雨は止んでしまった。彼女の頭上だけ。

「****、」

 肩に手を置かれ話し掛けられると彼女はびくりと大きく肩を揺らし振り返る。黒髪に赤い目。とても整った顔をした男が彼女の頭上に傘を差していた。彼女の血のように深い赤い目と男の楽しそうに三日月型になった赤い目が交わる。

「*****?」

 男はもう一度彼女に何かを尋ねるが彼女は理解できず首を傾げると何かを呟く。すると彼女の耳に池袋の人の声が音が入ってきた。

「なにかご用ですか?」

 発せられた彼女の声は今まで悲しんでいたなんて思わせないほど凛とした堂々とした日本語だった。そんな彼女に男はにやりと何かを企んだような嫌な笑みを浮かべ話しかける。

「君さあ、うちにこない?」



110204


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