「とりあえず、アンタ怪しいから捕まえてもいい?」
「そんな風邪っぴきの弱った体のヤツがなにいってるの」

 なにそれギャグ? はは、おもしろいね。そういって私は鼻で笑った。そんな今にも倒れそうなほどに弱った体じゃ私を捕らえるなんて無理もいいところだ。もちろん彼が完全回復したって捕まる気はさらさらないのだけど。
 私のものいいがカンに障ったのか彼は眉毛をぴくぴくさせながらアハーとわざとらしく声を出して笑った。怒ってすぐに飛び掛かってこないのは関心した。これで飛び掛かってきたら本当に忍失格だ。忍に感情なんていらない。アカデミー生でも知っているようなことだ。熱があるからといってそんなとち狂ったことはしないだろう。いや逆に熱があるからこそ動かないんじゃなくて動けないのか?それはそれで笑いが漏れてしまう。

「まあ別に一緒にいってあげてもいいよ」
「はぁ?」

 いかがわしそうに私を睨む彼だったが熱で赤く染まった頬で台なしで私はまた笑ってしまった。

「風邪、辛いんでしょ? 早く主のところに帰りたいんでしょ? でも目の前の怪しい私を捕まえなきゃいけない」

 確認するように彼を見るとああそうだね、と私の言いたいことがよくわらないのか適当返事をした。

「要するに、私みずから捕われてあげるっていってるんだよ」

 沈黙。ラッキーとかもっと何かリアクションを起こしてくれないと私も困るんだけど。しかし彼はただ口をポカーンとあけ私をじっと見てるだけだった。整った顔をしてるなあ、と思っていたけど彼の今の表情はなんとも間抜けだった。

「……頭おかしいんじゃない?」
「ひどいね」
「アンタの実力、まだあんまりわかってないけどさ、今逃げようと思えば逃げれるでしょ? 俺様こんなんだしさ……」
「そうだね。でも別に逃げるところなんてないしさ。行く当てもないから、別にいいよ」

 そっちのほうが楽しそうだし。そう言って笑った私に彼は「なんか気が抜けるなあ……」と言い笑い返した。






「……でも、さ」
「うん?」
「なんで、この体制なわけ?」

 忍らしく素早く木々を移りながら彼の主の元へ向かっていると彼が口を開いたので耳を傾ける。

「いいじゃない。この方が私的には楽だよ」
「いやあ……俺様的には屈辱なんだけど」

 そういって苦笑いする彼に私は吹き出した。彼は何が不満なのかというと私に所謂お姫様抱っこされているのが不満なのだろう。この体制は昨日の熱を出した彼を運ぶときにもしたから2回目だけど彼は意識がなかったから知らない。俺様一生の恥とおどけている彼は少し照れを隠しているようにも見えた。傷口に塩を塗るのもアレだからそのことは私だけの秘密にしておこうと思った。まあ弱みとして記憶の端に置いておき必要なときがきたら教えてあげよう。クスクス笑う私を彼は不思議そうにみてきたが無視した。

「そういえば名前は?」
「……人に尋ねるときは自分から、っていわない?」

 大人しくお姫様抱っこさえても警戒心はまだ解けてないらしい。不機嫌そうな顔で私を睨んでくるけど、熱で赤らんだ顔と潤んだ目、お姫様抱っこしてるから必然と上目遣いで見てくる彼はまったく怖くなかった。というか逆だった。男なのに漂う色気に当てられ不覚にも私はどきりとした。女の私より色気が……悔しい。狙っててやっているのだろうか。忍の彼ならありえるかもしれない。

「それはそれでむかつく」
「なに? なんかいった?」

 おもわず声に出してしまったけど彼には届かなかったらしい。よかった。「なんでもなーい」と苦笑いしながらさっきより少し大きな声でいいごまかした。

「あー私は千花」
「千花ちゃん、ね。俺様は猿飛佐助」
「ふーん、よろしく佐助」

 猿飛佐助。よく聞くような名前だった。3代目火影も猿飛の性だから3代目の甥のアスマも猿飛で随分馴染みのある苗字だ。佐助だって確かうちは一族の生き残りの子(イタチの弟だっけ?)の名前も佐助だったはず。次々に知り合いの顔が浮かんできて少し微妙な気分だった。里を抜けてもう結構立つのに意外とはっきり覚えてるものだ。

「何……泣きそうな顔してるの」

 佐助の声にはっと意識を戻す。泣きそうな顔……していただろうか。別に木の葉なんてただ生まれ育っただけだからそんなに思入れなんてないと思ってたんだけどなあ。

「あー……病人は寝てなさい」
 自分でも気づかなかったことを見破られたような気分になりなんだか悔しくなったから無理矢理彼を寝かしつけた。ざまあみろ。完全に八つ当たりだった。さて、目的地まであと少しかなー。






すぅーと深く息を吸い込む音に何故か少し安心した。

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