俺には大きな夢もやりたいこともなりたいものも実はない。もちろん口には出さない。だってここはちゃんとした覚悟をもって集まっている人達の場所なのだから。俺みたいに中身のない人間がいたって皆の迷惑になるだけ。ここにいる彼らははみんなちゃんとした存在理由がある。個人的なことは知らないが夢もしたいこともなりたいものもそれぞれあるのだろう。そんな強い意志がある彼らは俺にはいつもキラキラ輝いて見えて眩しくて仕方ない。ただひとつだけ中身のない俺にあるものは、憧れだけなのだろう。

「なんや仁科くんややこしい顔して。どないしたん?」
「志摩…」

 悪いものでも食べたん?とニコニコ笑いながら俺の顔を覗き込む志摩に驚きびくりと心臓が跳ねた。動揺したり弱みをみせるのは嫌だから顔には出さないよう気をつける。こんな俺だから祓魔塾はおろかクラスにだって友達はできない。どうやらクラスの連中の中で俺は無口でクールな人ということになっている、と志摩に聞いた。

「まあ仁科くんがややこしい顔なのは毎度のことやな。仏頂面ってゆーか」
「おーう、無愛想ですいませんね」

 ケラケラ笑う志摩に俺のイライラポイントは1アップした。でも志摩はこんな俺に唯一話し掛けてくれるやつだ。こんな風に冗談をいいあったり普通の話ができるのも志摩の気さくな人懐っこい性格のおかげ。まあ、今の会話は冗談というより事実なんだけど。

「テストどうだったん?」
「79点。志摩は?」
「俺もそんくらいや」

 返却されたテストは思ったより普通の点数で安心した。暗記は得意だからよかった。奥村センセからは「大体は理解できてますね。復習をちゃんとしましょう」と言われた。奥村センセは一番前の奥村の弟で同じ年だ。同じ年の人間を先生と呼ぶのはなんとなく慣れない。すんなり呼んでる志摩たちはやはり俺とは違うのだろう。そりゃあ俺とは違い皆学ぼうという気があるんだから。

「女とチャラチャラしとるからや。ムナクソ悪い…!」
「は!?」

 ぶつかりあう奥村と勝呂の声。その光景にハァとため息をついた志摩は「坊なにしてはるんですか」と呟く。奥村と勝呂、どちらも話したことはなく俺の中のイメージとしては奥村は寝ぼすけ、勝呂は不良って感じ。でも二人とも真剣に祓魔師になりたいと思ってる。もちろん予想でしかないけれど。

「俺はな、祓魔師の資格得る為に本気で塾に勉強しに来たんや!!塾におるのはみんな真面目に祓魔師目指してる人だけや!!」
「……っ」

 勝呂の言葉は、痛かった。本気で、真面目に。俺とその言葉はとても不釣合いで似合わない。きっと、居心地の悪さを覚えるのは俺だけなのだろう。勝呂の言うとおりここにいつやつらは真面目に祓魔師を目指してるのだから。俺みたいに知り合いに進められてなんとなくとかそんな理由は甘すぎる。鼻で笑われるどころか舐めんなと殴られそうだ。

「まったく坊は…」

 勝呂をとめに志摩はいってしまった。俺は勝呂のいう通りでていったほうがいいのかもしれないな。なんて心にもないことを考える。俺はどうしようもないくらい往生際が悪く何故かここから動けなかった。どうして、なんだろうな。自分のわからない気持ちに、俺は苦笑いをした。


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