立海大附属高校に通うあたしは今まで普通の普通で平和が大好きな女子高生。自分で自分のことを女子高生と呼ぶのはなんだか少し気恥ずかしい。でもあと1年しか女子高生を名乗れないんだから今のうちにたくさんいっとこう。そんなことを思う高校三年生の春。あたしはある人に出会った。

「成岡っす。よろしく!」

 短い言葉であるがそう自己紹介しニカッと太陽みたいに笑う彼にあたしは数秒見惚れてしまったのをよく覚えている。転校生である成岡くんはすごく容姿が整っていてどこか取っ付きにくい印象を受けたがすぐに変わるものとなる。成岡くんは1週間もせずにこのクラスどころか学校全体に打ち解けていった。人懐っこい笑顔を見せ誰にでも話しかけている姿をよく見かける。そんな彼が人気者にならないはずもなく男女ともに好かれているようだった。すごい人が転校してきたものだと友達と話をしていた。あたしは成岡くんとは挨拶程度であまり話したこともなかった。でも話してなかったからからといって彼のことが気にならなかったと言えば嘘になる。しかしそんなあたしの淡い思いは学校が始まって1週間、つまり彼が転校してきて1週間後に綺麗に崩れていった。

「呼び出してごめんね仁科」
「い、いや全然大丈夫」

 何故私は人気者の成岡くんと二人っきりで会っているのだろうか。彼に屋上に呼び出されるなんて思っても見なかった。放課後の屋上は誰もいなく、人気のない屋上に広がる青い空と目の前の成岡くん。もしかして告白? なんて頭の悪いことを思ってみるけれど人気者の彼があたしを好きになる理由なんてなかった。そもそも本当にあたしと成岡くんは話をしたことがないのだ。何を言われるかなんて分かるはずがない。大人しくドキドキと心臓を鳴らしながら成岡くんの言葉を待っているとそんなに「緊張するなよ」と笑われた。

「えっと、話って?」
「仁科ってさ、仁王と仲いいよな」
「え? ハルくん?」
「そうそう。『ハルくん』なんて呼んでるんだ、へー。仲いいんだな」
「う、うん……」

 ハルくんとは、仁王雅治というあたしの小学校時代からの友達だ。あたしたちは小中高エレベーターで、今も同じクラスだし普通に友達なんだけど、どうして成岡くんはハルくんのことを聞いてきたのだろう。ハルくんとも仲良くなったのだろうか。普段無愛想なハルくんだけど人懐っこい成岡くんになら心を開いたのかもしれない。

「仁王だけじゃなくて幸村とも仲いいんだろ? 聞いたぜ?」

 楽しそうに笑う成岡くんが何を言いたいのか全くわからなかった。ハルくんのことを聞きたいわけではないらしい。首を傾げると成岡くんはその釣り目ガチな目をあたしにじーっと向けてくる。あたしが何を言うのか楽しみにしているかのような。

「精市くんはただ親同士が仲がいいだけであたしたちは別にって感じ」
「親同士……幼なじみってことか」
「うんそうだけど、」
「へえ!」

 あたしたちは特に仲がいいわけじゃ、と続けるけれど声をあげ笑う成岡くんは全く聞いてない様子。今の会話に笑うようなそんな楽しいことあったかな。あたしは成岡くんが不思議でしょうがなかった。

「いいなあ仁科」
「なにが……?」

 心底羨ましいといいたげな口調にあたしはよりわけがわからなくなる。あたしが羨ましがれるところなんて一つもないと思うんだけど。困惑するあたしに成岡はにやりと嫌な笑みを見せる。なんか、こわい?

「仁科は恵まれてるよなぁ。俺なんか転生したと思ったら埼玉住みだったし一度もキャラと遭遇したことなんてないんだぜ」
「……キャラ?」
「やっと立海に転校できたと思ったら、なんか逆ハー主っぽい人いるし! 俺傍観主かよ!って感じー」

 逆ハー?傍観? 聞いたことがない単語に頭が痛くなる。だってそれは、聞くと言うより見るという方が正しい言葉だから。同人、夢小説そんな言葉が連想ゲームみたいに浮かんだ。

「キャラと友達とか考えただけで楽しそうじゃん! さすが逆ハー主だよなー俺もそういう補正ほしかったよ」
「……っだから逆ハー主ってなんの話をしてるのよ!」

 いらいら、いらいらいら。ついに大きな声をだしてしまった。やば……そう思ってももう遅い。成岡くんは釣り目がちな大きな瞳を丸くしてあたしを見ていた。そしてまた、ニヤリと笑う。

「だから、仁科が逆ハー主って話だよ」
「……はぁ?」

 そう言った成岡くんの表情はとても誇らしげであたしは思わずマヌケな声をだしてしまった。あたしが逆ハー主って……ここ三次元だし……!二次元と三次元の区別がつかなくなってしまったのだろうか彼は。それはもうひどい厨二病だ。至急病院にいったほうがいい、そう思った。そもそもあたしに好意を寄せてる人なんて一人もいないんだから逆ハーでもなんでもないんだよ!

「ああ、もう頭痛が痛い!」
「ハハ、やっぱり逆ハ主は頭悪いなぁ。日本語おかしいぞソレ」
「うるさい!」

 こうしてあたしは転校生成岡くんに付き纏われるようになった。それはとても迷惑で、あたしの大好きな平和が崩れていくのだった。






謎の転校生あらわる










(110501)



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -