「ほんっとやんなっちゃうわよね。少し笑顔向けてやっただけですぐあの様よ。笑顔がかわいいから好きだなんて知能が動物並ね。いいえ、より強い遺伝子を残そうとする動物の方がよっぽど優れてるわ。ごめんなさい動物たち! あぁ、でも美しいものを自分の遺伝子に引き入れようとするところは本能なのかしら? やっぱりあいつら動物ね。二度と視界に入れたくないけれど、今度あたしの前に姿を表すときは四つん這いにでもなってればいいわ」
「……」

 ぷっくり膨れたサクラ色の適度に潤った可愛らしい唇からは悩ましげなため息が吐かれる。ほんっと疲れちゃうと呟き短いスカートが乱れ素足が露出することも気にせず彼女はソファーに寝転ぶ。猫みたいな吊り目をより吊りあげハッと見下したように鼻で笑い暴言を吐く彼女をあの千花・仁科だといったら誰が信じてくれるのだろうか。






「くだらないことにあたしの時間使ってんじゃないわよ、チンカス」
「、え?」
「っ!? だ、だれっ!」

 衝撃のあまり声をだしてしまったビルは慌てて息を潜めるがもう遅い。誰かがいるなんて思ってもみなかった千花慌てて回りを見回すが人影はない。オロオロとどうしよう、と眉を下げ青い瞳に涙をうっすら浮かべ今にも泣き出しそうな千花にビルは申し訳なくなり(さっきの発言は気のせい…?)姿を表すことにした。

「えーっと、」
「う、ウィーズリーくん! 今の、聞こえた…?」

 顔を真っ赤にしてビルの様子を伺う千花。そんな千花に思わずビルはごめん、と謝ってしまった。謝るということは否定ではない。つまり肯定だ。しーんと時が止まったかのようにまた静かになる。

「あの、聞くつもりはなかったんだけど、」
「ちょっと来て」
「は、」

 弁解しようとするビルの腕を千花はがしりと掴み歩き出す。距離の近さに千花の甘い匂いが香りビルの鼻孔をくすぐった。腕を引っ張られ縺れそうになる足を動かしながらビルはこんな細腕のどこにそんな力があるんだろうと思った。



 ビルが連れて来られたのは"必要の部屋"だった。千花がつかつかと歩み壁の前に立つ。すると壁にはドアが現れビルはとても驚くが、千花はそんなことは全く気にせずビルを部屋に押し入れ自分も入っていった。バタンと音を立て扉がしまる。そして、今まで黙っていた千花が口を開いた。






****







 次々と千花の口から流れでる暴言にビルは困ったように笑った。まさかあの千花・仁科がこんなことを言うような女の子だったとは。普段の彼女は猫かぶりをしていたということなのだろう。彼女のトレードマークの愛らしい花の髪飾りが揺れる。

「軽蔑した?」

 気が済んだらしくハァとため息をついてからビルを見る千花。ビルの青い瞳と千花の青い瞳が絡まり合う。千花の吊り目がちな青い瞳はいつものように笑ってなどはいなくて、いつになく真剣にビルを見つめていた。鈴の鳴るような凛とした千花の声は少しだけ震えているような気がした。

「……してないよ」
「ウソつかなくていいよ。うっかり声を漏らすくらい驚いてたじゃない」
「確かに驚きはしたけど、軽蔑はしてないよ」

 確かにビルは千花の変貌には驚いたけれど軽蔑はしていなかった。そもそもあんなに完璧な人間が本当にいるはずがないのだ。千花が性格を偽っていたとしってもまあ、納得できることだった。全然動揺を見せないビルに千花は形の整った眉を潜める。

「本当に?」
「うん」
「絶対?」
「もちろん」

 本当に本当? と何度も確認を取る千花がおかしくてビルは思わず笑ってしまった。笑われた千花は頬を赤らめ不機嫌そうに頬を膨らます。その表情がまるで小さな子が拗ねたように見えて思わずビルは千花の頭を撫でた。

「ちょっと!バカにしないでよ」
「バカになんてしてないさ。かわいいなぁっと思っただけだよ」
「っムカつく!」

 そう怒りビルを睨む千花だがその表情は少し安心しているようにも見えた。本当は怖かったのだ。自分の捻くれた性格を晒してしまえば皆自分から離れていくのではないかと。受け入れてくれたビルに少しだけ感謝して千花は笑っていった。

「笑った罰としてあたしの友達になりなさい」

 それは罰なのかい? とビルが問うと千花は罰でしょと言った。




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