「ッいった!」

 これだから嫉妬深い男は嫌なのだ。たかが同じクラスの男子と話したくらいであたしを殴るくらい嫉妬してくる。もう嫉妬深いとかそういうレベルじゃない。もし平手じゃなくグーだったなら傷害罪で訴えるところだ。

「別れよう」

そう言うと落としてしまった鞄を掴み弁解しようと必死の彼を無視し足早に学校を後にした。好きになった人を殴るというのはどんな理由があってもよくないと思う。結構好きだったのにな。じんじんと痛む頬をひと撫ですると目の前を黒猫が過ぎった。

「不吉ー」
「にゃおん」

 別に迷信とか信じるタイプじゃないけれど思わず言ってしまった。不思議そうにあたしを見る黒猫に苦笑いをした。

「君は自由でいいなあ」
「にゃあ」
「あたし、君になりたいよ」
「うにゃんっ」

 まるであたしの言葉がわかるように返事をする黒猫の頭をしゃがみ込み撫でる。ゴロゴロと喉を鳴らし喜んでいるようだ。何かあげたいけれど猫が食べれるようなものは持っていないし。名残惜しいけれど立ち上がる。

「ばいばい黒猫さん」
「うにゃあーん!!」

 別れを告げたその時、黒猫は大きな声で鳴いた。猫が銀色に光だしあたしは驚いて目をつむった。

「なにっ?」

 眩しくて目が開けれない。意味がわからないと困惑しているうちに何故かあたしは意識を失ってしまった。耳に残るはあの黒猫の声。




****





 冷気が体に伝わりぶるりと寒さに身体が震えてあたしは目を覚ました。酷く歪む視界はぼやぼやとしていたが段々とはっきりしてきた。すると自分がさっきまでいた場所でないことはわかる。だって視界は緑色。あたしのいた場所から森や山なんてかなり離れているもの。立ち上がろうとするが手にも足にも力が入らない。どういうこと?あたしの隣にほうり出された鞄にストラップのようについていた鏡を覗き込む。

「猫……?」

 見慣れた自分の顔が写るはずの鏡には何故か黒猫が写っていた。嘘でしょ、小さく呟きもう一度鏡を覗き込むが一切変わらず黒猫のままだ。

「あたし、猫に…?いや、だって、そんな…あたし人間でしょ?」

 変われ、と強く祈りまた鏡を覗き込んだ。すると今度は見慣れた自分の顔でほっと一安心した。しかし、日本人らしい黒髪は最後にみた光のような銀色に、瞳は赤く、頭にはあるわけがなかった猫耳が生えていた。黒い猫耳、あたしはまさにあの猫だった。

「嘘でしょ、」

 確かに猫になりたいとは言ったけれど本当になってしまうなんて誰が思うだろうか。しかも猫耳って…とれないか引っ張ってみたけれど頭が痛いと悲鳴をあげるだけだった。もう一度猫の姿を思い浮かべる。すると視点は低くなり鏡の中のあたしは黒猫。

「……なるほど」

 思い浮かべれば黒猫に、猫耳人間になることができるらしい。しかも黒猫のまま口を開いても言葉を話せる。これじゃあ本当に化け猫だ。耳無しの元の姿を思い浮かべてみたけれど相変わらず猫耳はそこにあった。人間には、戻れないらしい。

「なりたいなんて言ったのが悪いのかな」

 はは、と笑いを漏らせばぽつりと響くあたしの声。とりあえずここでこうしているわけにはいかない。猫耳姿で街中を歩くわけにはいかないのであたしは黒猫になり足を動かした。









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