今日のおやつはみたらし団子。闘牙さんとぼーっとしながらおやつを食べるのが最近では日課になってきている。大きなお屋敷の頭首さまである闘牙さんはお金もいっぱいもっているからおいしいものもいっぱい食べれる。毎日もらってばっかで悪いなあと思っているけれどお菓子に目がないあたしにはやめれなかった。こんな様子で太ってしまうはずのあたしの体は一切変化がない。爪や髪が伸びることもなくずっとそのままだった。肉体の変化は一切なくなってしまったようだ。太らなくていい喜ぶべきなのか、身長が伸びないと歎くべきなのか、複雑だ。

「闘牙さんって何歳なんですか」
「お前にはどう見える?」

 キャバ嬢みたいな返しをしないでよ。思わず声を立てて笑ってしまったあたしを闘牙さんは不思議そうに見てから団子に食らいつく。闘牙さんの食べ方はなんというか、豪快だ。かぷりと食べる様子は犬っぽい。

「とてもあんな大きな息子がいるようには見えないよ」
「……自分が何年生きたかなんてもう忘れてしまった」
「それはなんだか……、」

 その後の言葉は闘牙さんの人生を否定するような言葉だったから言えなかった。かぷり、と闘牙さんの真似をして団子を食べた。桜を見ながらのお団子はとてもおいしかった。

「この桜は枯れることもなく一生咲きつづける」

 桜を見上げた闘牙さんを見てあたしも桜を見上げた。闘牙さんの部屋から見えるこの庭は本当に綺麗だ。お屋敷で一番綺麗な場所といってもいいくらい。あたしの一番のお気に入りの場所だった。はらりはらりと桜の花びらは舞い、あたしの頭や闘牙さんの肩に落ちる。儚く永遠を生き咲きつづける桜はとても綺麗であたしは頭についた花びらを振り落とすことができなかった。

「陽、お前はこの桜のように永い時間を生きることとなる」
「……」
「とても永い時間だ。人間だったお前にはより永く感じるだろう。永くて、一瞬だ」

 綺麗な闘牙さんの瞳があたしを貫くように見る。人間だった、なんてあたし闘牙さんには一言も言ってないのに。そんなにあたしは人間くさい半妖だっただろうか。桜に降られる闘牙さんはあまりに綺麗だったから思わず顔を反らそうとすると、咎めるように頬に手を当てられ、また闘牙さんと目が合ってしまう。

「咲き続ける覚悟はできているのか」

 咲き続ける、半妖として生き続ける覚悟。もうあたしは、人間には、現代には戻れないのだろう。なんとなくそう思った。ここは夢なんかじゃなくて、切られれば血が流れる現実だ。闘牙さんの瞳に写る猫耳姿のあたしを見る。銀髪に赤い目、そして猫耳。顔立ちはあたしだけれどどれも元のあたしとは全く違うものだった。それを受け入れる覚悟。

「怖いか」
「……怖いよ」

 何十年何百年生き続けるなんて怖いに決まってる。でも闘牙さんは言った、永くて一瞬だと。それは永く生きてきた闘牙さんだから言えることだ。闘牙さんは大妖怪だからきっとあたしには想像がつかないくらい永い時間を生きている。これから先も生きていく。いつのまにかあたしの涙腺は緩んでて、ぽたりと涙は膝の上の手に落ちた。

「泣け、陽」
「……泣きません」
「強がるな」
「……強がってません」

 お前は意地っ張りだな、そう言って闘牙さんはあたしの涙を親指で拭った。この時代に来て涙を流したのはこれが初めてだった。優しい闘牙さんの表情を見ると酷く安心して、より涙は溢れた。ぼたぼたと落ちるあたしの涙を隠すように闘牙さんはあたしを抱きしめた。

「……闘牙さんが生きてくれるなら、あたしも生きる」

 くぐもった声でそう言えば闘牙さんは何も言わずあたしの頭を撫でる。闘牙さんの温もりにあたしは今までの不安を全て吐き出すように、闘牙さんにしがみつきながら子供のように声を上げて泣いた。






上手に泣けた日








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