今日も闘牙さんのお屋敷に向かう。走ったりする時は黒猫の姿の方が楽だ。なぜだかわからないけれどどんなに走っても疲れることはない。妖怪の力、なのかなとぼんやり思う。
変わらず大和さんはあたしが闘牙さんのところに行くのをよく思っていないらしい。時々あたしに頼み事をして闘牙さんのところへ行くのを止められたりした。そんな遠回しに言わなくても…話を聞いたらあたしだって考える。でも大和さんは話してくれない。いくら親しくても言えないことや聞けないことはあると思う。でも話してくれないのは少しだけ悲しかった。なんて思いながら闘牙さんのお屋敷に一歩踏み入れると、
「あ」
「……」
闘牙さんの息子さんがいた。闘牙さんには奥さんが二人いることは知っている。妖怪と人間の奥さんが二人。しかし二人の姿を見ることはなかった。闘牙さんのお屋敷は広いから仕方ないかもしれないけど。お世話になっている方の息子さんに黒猫の姿でいるのもアレなので人型になった。今だ猫耳は恥ずかしい。
「えっと、こんにちは」
「……」
息子さんとは初対面だ。息子さんは闘牙さんにそっくりで綺麗な見た目をしている。妖怪の年齢なんてわからないけれど見た目は同じ年くらいだろう。無愛想だし無口な人だなあなんて思ってたら息子さんが口を開いて言った。
「……半妖か」
「そうだよ」
軽蔑したようなその人の瞳は闘牙さんに似ていて少しだけ怖かった。でもあたしは半妖であることは悪いことじゃないと思うし堂々としているべきだとも思う。だから強い妖力を持つ相手にだって怯えない。ぎゅっと掌を握り闘牙さんの息子さんを睨むと息子さんはじろりとあたしを眺めて背を向けていってしまった。
「…猫みたい」
「ハハっ!猫か!確かに似ているな」
「闘牙さん、」
ぽつりと呟いたあたしの後ろから聞こえた笑い声。振り向くとでかけていたのだろう鎧をきた闘牙さんがいた。あたしと会うときは普段着らしい着物を着ていたから鎧姿は初めてみる。隣にいた家来さんに「下がってよい」と告げあたしの元にきた。
「殺に会ったか」
「セツ…?」
「殺生丸だ。陽と会わせるつもりはなかったのだがな」
殺生丸というのか彼は。物騒な名前、と思ったけれど名付けた闘牙さんの名前で口に出すわけにもいかなかった。
「どうして会わせるつもりなかったの?」
「陽を殺されるのは困るからな」
闘牙さんの答えにあたしの身体はピシリと固まった。殺生丸は名前の通り怖い妖怪だった。殺されなくてよかった、あたし睨んだのに。ぶるりと身体を震わすと闘牙さんは楽しそうに笑った。
「あとで殺に言っておくよ。陽は俺の大切なヤツと」
「ヤツじゃなくて客でしょ」
「殺と仲良くしてやってくれ」
あたしの言葉を無視して闘牙さんは言った。仲良くって、殺生丸あたしのことすごい嫌そうに見てきたのに。断ろうと思ったけれど、闘牙さんの瞳はいつになく真剣であたしは無言で頷くしかなかった。いつもと違うこの瞳は、父の瞳だった。
可哀相という言葉は彼が為に在った