「遊びに行ってくるね、大和さん」
「また西国ですか…?」
「うんそうだけど…どうかしました?」
「…いえ、気をつけていってらっしゃい」
「はぁい」

 どこか思い詰めた様子の大和さんに首を傾げながらあたしは住家をでた。大和さんはあたしが西国に行くのをあまりよく思ってないらしい。なんとなくだけどそんな気がする。優しく微笑む大和さんは綺麗で少しだけ威圧感を感じてしまいあたしは自ら聞くことはできなかった。そもそも大和さんに行くなと言われても、困る。
 闘牙さんとあってから数日たった。闘牙さんは別れ際にいつも「またな」というから会いに行かなければいけないような気がして、あたしには行かないという選択肢はなかった。だから何もすることがない日は闘牙さんのお屋敷に入り浸っていた。何をするでもなく庭を見たり闘牙さんの話をきいたり。お屋敷の妖怪さんたちはあたしを見かけても何も言わない。半妖だからと罵ったりすることもなくただ無関心だった。きっと闘牙さんが話を付けたのだろう。
 闘牙さんが西国を納める大妖怪だとしったときはすごく驚いた。「気安く呼んでごめんなさい」と闘牙さんに言うと闘牙さんはきょとんと不思議そうな顔をしてから声をあげて笑った。笑われたというのが正しいのかもしれない。「律儀な猫だな」と大きな手で頭を撫でられたのはこれで2回目だった。闘牙さんは色んな意味で大きな方だった。




****






「名前、」
「ん?」
「あたしの名前、なんで陽っていうの?」
「あぁ」

 薄ピンク色の綺麗な桜の花が舞い散るのを闘牙さんの部屋から見る。その庭は調度あたしたちが出会った場所だった。

「昔、猫を飼っていた」
「それってあたしみたいな半妖?」
「いいや、普通の黒猫だ」
「へぇ」

 犬の大妖怪が猫を飼っていた。なんとなくシュールで隣に座り桜餅を食べる闘牙さんにあたしはくすりと笑みを漏らす。桜餅は嫌いだ。「餡がだめ」というと闘牙さんは「次は他のにする」と言ってくれた。

「その黒猫が陽だったんですね」
「お前にそっくりだったよ」
「だから初めてあった時陽っていったのかあ」

 きっとその黒猫はあの黒猫だ。あたしがここにくる原因となった黒猫。つまりあたしが陽なのだろう。だからこんなにも名前がしっくりきたのか。

「いい猫だった」
「……そうなんですか」

 そう言った闘牙さんの横顔はとても優しい表情で、まるで自分が褒められたような気がして思わずそっぽを向いてしまった。しかしそんなあたしに闘牙さんは何を勘違いしたのか言う。

「嫉妬か?」
「な、」

 んでそうなるんですか、と続くはずだった言葉は口の中で死んでしまった。顔を上げれば目の前には闘牙さんの美しい顔。見蕩れてしまったあたしは何も言えず顔を赤らめるだけ。あ、嫌な笑み。闘牙さんの優しい表情が一気にニヤリとした人(妖怪?)の悪い笑みに変わった。そんな笑い方も似合っているなあなんて呑気なことを考えてしまう。きっと闘牙さんは勘違いしたまま。

「お前もかわいい猫だ」

 薄赤い色っぽい唇から見えた白く鋭い牙にあたしは恐怖からなのか違う意味からかあるいは両方か、思わず身体をぶるりと震わせた。






こぼれた愛をすすって生きる











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