あたしが猫になって一ヶ月がたった。相変わらずあたしは猫のままで元に戻ることできない。でも意外と猫って言うのは便利だった。身軽でいろんなところにいけるし、かわいくなけばご飯だってくれる。ありがとうとにゃおんとなけば人は優しく頭を撫でてくれた。
 いくつか気づいたことがある。ここはあたしのいた場所ではない。どんなに歩いても街らしき街なんて一つもなくあるのは小さな村だけ。住んでいる人もまるで時代劇のような着物を着ているし、ビルなんて一つもなく木造のボロボロの建物ばかり。戦国時代、らしい。そしてこの世界には妖怪がいるのだ。あたしも森の中をフラフラとしていたら変な化け物を見かけたことがある。あれが妖怪。あたしがこの時代で一番仲良くなったのも妖怪。

「クロ?また人里に言ったのですか」
「お腹すいちゃって」

 へらりとあたしはごまかすように笑った。狐の妖怪の大和さんは寝床のない私に住家を提供してくれた優しい妖怪さん。住家以外の場所では狐の姿だけど、あたしと同じで人型にもなれるのだと。人型の大和さんはとても美人ではじめてあったときは女の人がと思った。

「あまり人里にはいかないほうがいいですよ」
「はーい」
「…ハァ。わかってませんね、クロ」

 生返事のあたしに大和さんは困ったように笑った。クロというのは大和さんがあたしに付けてくれた名前。名前は?と聞かれた時、何故かあたしは咄嗟にないですといってしまった。そしたら大和さんが付けてくれた。黒猫だからクロ。安直すぎるけれどあたしは結構気に入ってる。

「大和さん、あたし散歩してくるね」
「クロ、人里には」
「わかってますよ。今日は西にいってみます」

 西の方にもたくさんの生き物の気配を感じた。きっと村か何かがあるのだろう。大和さんにはあまり遠くにいくなと言われているけれど、この時代のことを何にもしらない好奇心旺盛なあたしは興味津々だった。

「ハァ、西には妖怪がたくさんいます。あなたは半妖ですが充分妖気が強いから大丈夫かと思いますが危険を感じたらすぐに帰ってくるのですよ」
「はいはい。じゃ、いってきます!」

 まだ何かいいたげな大和さんに別れをつげあたしは猫になり住家をでた。後ろから本日3度目の大和さんの溜息が聞こえてきて一人クスリと笑った。大和さんには家族が一人もいない。だから少し過保護なんだ。ちょっと厳しすぎるかな、と思うけれどまるで優しい兄ができたみたいで嬉しかった。
 大和さんはあたしのことを半妖だという。言葉のとおり人間と妖怪のハーフということだと聞いた。人間は元のあたし、妖怪はあの黒猫なのだろうか。普通の猫に見えたけれど普通の猫は人間の言葉を理解したりいきなり光りだしたりしない、か。あたしがこの時代に北理由はまだよくわからない。ただ不思議と帰りたいとも思わなかった。帰っても毎日学校にいって友達としゃべって少し勉強して帰るだけの毎日。今このわけがわからない世界にいるほうがずっと楽しいかな。なんて脳天気なことを考えてられるのは心の中でいつかは帰れると期待しているからかもしれない。もしかしたら温かい布団に包まれてベッドの上で目を覚ますかもしれないし。そんな甘い考えを持ってあたしは、今はこの世界で生きて行くことを決めた。




お帰り












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