黄瀬は疑問に思っていた。
それは体育館脇でせっせと働いている彼、苗字名前の事である。
彼は帰宅部であるがたまにバスケ部の手伝いをしている。
笠松と仲が良いため、試合前など練習に集中したい時など頼まれたりするようだ。
そもそも、なぜ帰宅部なのか。
体格もいいし、運動神経もあるらしい。
特別家庭の事情があるわけでもないようだし、バイトはしていない。
なのに、何故。
考えても答えは出ずすっきりしないので本人に聞いて見ることにした。
「あの、ちょっといいッスか?」
『なんだい?』
ボールを磨いてた手を止め、優しそうな笑みを浮かべながら聞いてくる。
モデルの自分から見ても、かなり綺麗な顔をしていると思う。
「苗字先輩ってなんで部活しないんスか?運動神経もあるし、体格も良いじゃないッスか。」
自分がそう言うと苗字は少し考えて言った。
『何となくかな。』
「えっ」
『最初は部活するつもりだったんだけど、どこの部に入るか考えてる内に入部期間終わっちゃったんだよね。途中から入るのも面倒だし。何となくもういいかなって。』
でもしないと暇でね、そしたら笠松がじゃあ手伝いしてくれよって。
そう続けながら苗字はにこにこと笑う。
黄瀬は何となく力が抜けるのを感じた。
「なんスかそれー!途中からでも入れば
良かったんじゃないッスか!」
『面倒くさくなったんだよね。所で黄瀬君。』
「なんスか?」
『笠松凄い顔してるよ。』
さっと振り向くと笠松が青筋を浮かべていた。
「ヒィイ!すいませんッス!」
「謝るならすんな馬鹿野郎!!」
蹴られつつもコートへ戻る。
苗字の方を見るとまたボールをせっせと磨いていた。