彼女の手のなかには、小さな箱があった。ああそうか。今日だったっけ。と、今朝も別の子に渡されていたことすらすっかり忘れて納得した。不機嫌そうな目ではなく小さな箱を見れば、丁寧とは言い難いラッピングがされていて、不格好ながらそれがかわいいと素直に思えた。もちろん、それは彼女の訴える目が、この箱の中身がなにか、そして今日がなんという日かわかっているからなのだが。でも俺はどうも素直になれない生き物らしく、意地悪く、どうしたの、それ。といった。すると彼女はむっ、と言わんばかりに眉を寄せて唇を尖らせたのだ。子供っぽいなと思った。

「友達が、基山にって」
「ふうん。ご苦労さま」

刺々しい声に愛想笑いを浮かべれば、押し付けるように渡される。乱暴だなあと言えば、やっぱりうるさいと言われた。どう聞いたって、君の声の方が大きいのにね。でも俺は、それを嫌だと思えないでいる。彼女とは腐れ縁というやつで、この学校に入ってから不思議と縁があるのだ。しかしお互いに相性は最悪で、だから彼女も、嘘をついてでしかこうすることができないのだ。俺はそれを知っている。けれど、俺も素直じゃない。

無言で立ち去ろうとした彼女の前で、俺はリボンを解いた。ありえない、という顔をされた。どうして? としか俺は思えなかった。包みを剥がして箱を開ければ、これまた不器用さが滲み出る形をしたチョコレートが入っていた。独特の甘い匂いがした。ちらっと彼女を見れば、林檎みたいに真っ赤で、目は潤んでいた。なにも言わない。ああかわいいなあ。そう思えば、少しだけトクトクという音が聞こえてきた。気のせいだろうか。

そのうちのひとつを摘み、じっと見ていると、「早く食べなよ」とか細い声がした。心なしか、震えている。いつものあまのじゃくな態度とは打って変わって、でも目だけはそのままだ。だから俺は言ってやった。本当に君のじゃないんだね? って。

俺は、さらに目を丸くさせた彼女を気にしないようにしながら、ぱくん、という感じで大袈裟に食べてみた。市販のチョコレートを使っただけあって、味はさほど悪くない。ただ、後味が悪い。こう、しっくりとこないというかなんだか不思議なほどに後味が悪いのだ。彼女の友達はいかにも“女の子”という言葉がぴたりと当てはまるような子。料理は大得意だったはずだ。だからやっぱり、これは君のなんだろう? と顔を見たら、なんともいえない表情をしていて、俺の体のどこかが、ヘンな音を立てた。

「ねえ、もしもの話だけど」
「うん?」

それからひとつ大きく呼吸をした彼女は、吐き捨てるように言った。あ、と芯がぐらぐらした。そこを逃さないように、彼女の言葉が俺を捕らえた。

「もし、それがわたしのだったら、あんた受け取らないでしょ?」

口の中が苦く感じた。けれど、それを忘れようとして、そうだね。と意地を張った。けれど、張り詰めて抑えたものが、ひどく不満そうにしていた。それからくっ、と閉めた君の唇が、切なそうに見えてしまった。
それから俺は、ちょっとだけいびつな形をした、けれどとても深い味のするチョコレートを、もうひとつ口にした。君のことも、このチョコレートに閉じ込められたらいいのにね。そう思った。でもそのときにはもうなにもきかなくて、目の前には真ん丸な君の目と、そこにいる俺しかいなかった。結局はどっちも不器用なのだと、改めて思った。








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