数ヶ月通い続けている予備校からの帰り道
帰る時間になると空はもう真っ暗だ

四大受験を決意したものの高校3年間を遊びほうけていたツケというやつが回ってきたらしく今になって猛勉強していたりする

『・・・メール?』

赤信号で立ち止まると丁度ポケットで携帯が震えた

『あ、吹雪君から。』

ディスプレイに映し出されたのは大好きな彼の名前

「明日ちょっとだけ会えないかな。」

うわ、すっごい素っ気ない

だけどこれは入試を控えた私に対する彼なりの気遣いなのだ

私の入試が終わるまではお互いメールも電話もしないことになっている
更にはバレンタインの用意もしないように言い付けられているのだ

自分の力を高めたいと言った彼はサッカーで大学に行くことを決めた
数年前のFFIでその実力を発揮した彼を欲しがる大学は沢山あったけど、一度も相談されることなく彼は東京の大学に推薦で合格していた
対する私は北海道で地元の大学に進学する・・・予定

っていうか、明日、つまりバレンタインに会えないかだなんて勉強に集中しろと言ったのはどこのどいつだと言ってやりたくなる
まあ、そんなこと言いながらも私は十分浮かれてるんだけどね
よし、明日は予備校での自習を早目に切り上げよう

了解の旨を手短に打ち込みメールの送信ボタンを押した

******

予備校から帰って急いで用意をし、上着を羽織り玄関に向かう
リビングでくつろぐ母に行ってきます。と告げ玄関を出た
向かうのは勿論吹雪君の・・・ってアレ?

「あ、なまえちゃん!!」

家の前に立っていた吹雪君は私を確認するとニコリとこちらに笑みを向けた

『え、うそ、迎えに来てくれたの??』

慌てて駆け寄れば、そうだよ。と当然のように首を傾げられた
こんなさりげない優しさが女の子ウケするんだろうな

「じゃあ行こうか。」

吹雪君に手を引かれてやって来たのは当初待ち合わせ場所だった近所の公園
促されるままベンチに座るとそのすぐ横に吹雪君が座る
この距離がすごく心地好い

「勉強忙しいのに呼び出してごめんね。」

その言葉に大丈夫と首を振れば、良かった。と微笑まれ先程から手にぶら下げていた小さな紙袋を差し出された
「開けてみて」と言われその袋から箱を取り出せば中にはいくつかの小さなチョコレート

『すごい、美味しそう!』

「フフ、それ僕が作ったんだ。」

『え、吹雪君が!?』

吹雪君は私の驚き様にクスクスと笑いながらコクリと頷く
もう一度箱に整列したチョコレートを見れば私なんかが作るより断然綺麗で美味しそうだ

「勉強頑張ってるなまえちゃんに今流行りの逆チョコだよ。
東京の鬼道君って友達から作り方教えてもらったからきっと美味しいと思うよ!」

吹雪君からの逆チョコ・・・しかも東京の鬼道君ってFFIで吹雪君のチームメイトだったゴーグルとマントの人じゃないのか??
そんな大それた物貰っても良いのかな

「ねぇ、食べてみてよ!」

『え、あ、うん。じゃあ・・・いただきます。』

遠慮がちにチョコレートを手にとると「一口で食べちゃ駄目だよ」という吹雪君の言葉に従って半分だけ口にする
すぐに口の中に広がる優しい甘さ
ヤバい、吹雪君料理の才能あるかも

「どう?」

『うん、すっごく美味しい!!
あ、でもこのチョコ・・・』

食べて半分になったチョコレートは中が空洞になっている

「あ、気付いた?
このチョコレートはホローチョコレートっていって中が空洞になってるんだ。」

『へぇ、そうなんだ。』

物知りだなーなんて思いながら残りの半分を口に入れると「あ、でも・・・」と吹雪君が続けた

「何も入ってなかったってことはそれはハズレだね。」

んーじゃあ何か入ってるのがアタリってことだよね・・・・ん?
何か入ってる・・・?

『えっちょ、まさかアタリの中に香辛料とか入れてないよね!?』

流石の彼もそんなことはしないだろうと吹雪君に問いかければ「それはアタリが出てからのお楽しみ」とまるで語尾にハートがついているように可愛く言われた
いやいや、そんな可愛く言っても駄目だよ!
私、辛いのとか苦手なんだから!!

「ほら、まだ残ってるよ?」

『えーっと、残りは家で大事に食べるから。』

「もー家じゃ駄目だよー!!よし、じゃあアタリが出るまで今日は僕とお話タイムね!」

えええー!!吹雪君、私一応受験生なんだけど!!
いや、まあ吹雪君と一緒にいれるのは嬉しいけど・・・・って流されるな私!

何か寒いねーなんて言う吹雪君は鼻歌まじりに空なんか見上げだしてしまった
私が香辛料入りチョコに苦しむのは既に決定事項らしい

仕方ないと意を決して二つ目に挑めば先程と変わらない甘さが口に広がった
よ、良かったハズレだ

「もうすぐ卒業だね。」

三つ目を選んでいた私に投げかけられたであろう吹雪君の言葉
それは彼にとって残る高校生活最後のイベント
でも、ごめん、私まだ受験終わってないんだけど

「卒業したらしばらく会えなくなるね。」

そんなことお構いなしに続く吹雪君の言葉
そうなったら私達別れちゃうのかななんて思ってしまう
初めからそうなっちゃうような気はしてたけど、現実として突き付けられるとちょっときついな

ちょっと悲しくなってきちゃってごまかす様に三つ目を手にとった

カラッ

・・・・ん?今チョコから何か音がした?
気になってもう一度耳元でチョコを振ってみると、やっぱり何か音がする
固形物のような音・・・ま、まさか鷹の爪!?

「もうー、何してるの?
僕の話聞いてる?」

『え、うわ!ごめんっ!!』

話かけられて横を向けばすぐそこに吹雪君の顔があってびっくりした
チョコに夢中になりすぎて気付かなかった・・・ヤバい心臓ドキドキしてる

「なまえちゃんってホントにムードとか無視するよね。
まあ、それくらいがなまえちゃんらくて良いんだけど。」

『ご、ごめん。でもね、このチョコ何か音がするから気になって・・・。』

吹雪君の耳元で振ってみるとまたあの音がして彼は一瞬驚いた様な顔をしてすぐにニッコリと笑った
この反応はもしかして・・・

「良かったね、多分アタリだよ。」

『やっぱりかあああ!!
ちょ、何その期待してる様な眼差しは!!
駄目なの?やっぱり辛さで悶えなきゃ駄目なの!?』

「もういいよ」と言うことを期待して吹雪君を見つめると優しい微笑みを返された

「だーめ!」

『うわああ意地悪!!』

半ば意地になって三つ目を口にした
こういうのはノリが大事だとFFIから帰った当時の吹雪君が口にしていた

『んっ・・・』

襲ってくるであろう辛さに目をぎゅっとつぶって耐える・・・あれ、辛くない?
口に広がるのは先程と変わらない甘さ
きつくつぶっていた目を開けると食べて半分になったチョコの中に光るものを見つけた・・・ん、何コ「ねぇなまえちゃん。」

『っえ!?』

突然名前を呼ばれて顔を上げると、真面目な表情をした吹雪君と目が合った

「僕、サッカーが上手くなりたいって東京の大学に行くこと決めたでしょ?
それは結果的になまえちゃんと離れちゃうことになったけど、後悔はしてないんだ。」

『う、うん。』

言い切られたことが悲しいのは私の我が儘かもしれない
こういうを惚れた弱みっていうんだっけ?アレ違う?・・・・・・ん?
アホなことを考えていたら急に全身を包むような温かさ・・・・ホールドされてる!?

「でも、僕はなまえちゃんのこと絶対に手放さないからね。もっとサッカーの腕を上げて君を迎えに戻って来る・・・・だから」

『・・・うん・・・・・?』

ゆっくり離れた吹雪君は未だ私の手の平にあったチョコレートから光る固形物・・・もといシンプルなリングを取り出し、私の薬指に優しくはめていく
「迎えに来るまで君の左の薬指、僕に予約させて欲しいんだ!!」

吸い込まれるような真っすぐな瞳に見据えられて息の仕方を忘れてしまいそうになる
少しの沈黙に不安そうに眉を下げる吹雪君、そんな顔しなくても私の返事なんて一つしかないのに

ずっと待ってるよ!!

(その前に受験頑張ってね!)
(うっ、忘れてたのに・・・意地悪!!)







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