***
ピッピッ
真っ白な空間に響くのは無機質な機械音だけ。目の前には、泣き崩れている勝呂。
「なんでや…なんで俺なんかをッ!!」
「坊…気持ちは分かりますえ、けど…」
「わかっとる!わかっとるんや、そないなことはッ」
「そなら、…早く職務に取りかかって下さい!」
子猫丸と志摩も部屋の隅に立って眠ってる俺を見てる。口調とは違って表情は苦渋に歪んで、きっと言ってる本人も辛いんだろうななんて。自分のことなのにまるで他人ごとのように思えた。
「少し、ほんの少しでええ。俺に時間をくれへんか」
「…坊、そんな時間は「ええですよ」…志摩さん」
「少しぐらいええでしょ。子猫さん」
「……志摩さんがそう言いはるなら」
「志摩…ありがとお」
勝呂の返事を聞いたあと、先行ってますからとだけ告げて二人は病室を後にした。きっとまだ外には悪魔がたくさんいるんだろう。
「…いつまで寝とるんや。早よ起きい」
「……」
「言い逃げなんぞ許さへん」
「……」
「俺は、お前になんもしとらん!返事だってまだしとらんのやッ…」
さっきよりも整った顔を歪め、自身の涙でぐしゃぐしゃになった顔が視界にはいる。
「好きや!好きやからッ…せやからッ!」
「……」
今にも抱きつきたいくらい愛おしいのに触れられない。俺もだって、好きだってそう言いたいのに声にならない叫びになって。
「帰ってこい!俺より先に逝くことは許さへんぞ!!」
帰りたい。勝呂のところに。ぎゅって抱きついて、離れていた時間を取り戻したい。やっと通じ合った想い。
「……っ…」
「…奥村?」
「…す、ぐろ…?」
「奥村…ッ!?なんや脅かすなや。ほんまに…心配したんやでッ!!」
ぎゅって抱きつかれて体中に痛みが走ったけど、それよりもこの温もりが嬉しくて瞳から雫が散った。
「ごめ…ん」
「謝るくらいなら、心配させんな。…あほ」
「ん…っありが…と」
溢れた涙は止まることを知らなくてまるで、ダムが崩壊したみたいに流れ続けた。
「…まだ返事しとらんかったよな」
「そ、かも」
「一回しか言わへんからな!しっかり聞いとけ!」
少し赤が滲む頬を見て、心臓がズキズキと痛む。でもこの痛みは嫌いにはなれない部類のもので。
「好きや、愛しとる。せやから俺に心配かけさせなや」
「う、ん…ごめ…っ俺も!大…好きだ!!」
優しく頭を撫でてくれる大きな手のひらに、日溜まりに似た温かさを覚えて。再び俺は眠りについた。
←