中学生リボツナ24



人間生きていればいいこともあるし悪いこともあるのは当たり前で、顔がにやにやしちゃうくらい幸せな気持ちでご飯たべてるときもあれば、泣きたくなっちゃうくらいどうしようもならない気持ちに蹴りをつけようとふんばってるときもある。人と接していれば、自分から行動を起こしたり起こさなかったりすることで必ず周りの空気は動く。それが当たり前の日々の流れで、そういった毎日を積み重ねていくことでオレたちはおじいちゃんおばあちゃんになっていく。それが当たり前。当たり前なのである。
毎日おやすみと言って、朝になればおはようと言う。
外に出れば寒いねと言って、夏になれば暑いねと言う。
母さんと呼べば、なあにと母さんは振り向いてくれる。
リボーンと呼べば、なんだよとリボーンは答えてくれる。
もう一度同じように呼べば、二人は不思議そうな顔をして、それでいてくすぐったそうに笑ってくれる。
二人とも好きな人には変わりないんだから、本当は、すぐに答えは見つかっていたのだ。借り物競争で、好きな人と書かれたカードを拾ったとき、迷いなくリボーンに駆け寄って一緒に走ってもらえば良かったのだ。だってその場に母さんはいなかった。頭が真っ白になる必要はなかった。おかげでリボーンに迷惑かけた。

「…はずかしかった」

何度もリボーンに迷惑かけたことに、それからいつまで経っても変わらない鈍くさい自分が情けなくなって、本当に泣きたくなっていた。でもそんなこと死んでも誰にも知られたくなくて、必死に歯を食いしばった。
ゴールした後、リボーンからすぐに離れたくて繋いでくれた手をふり払うように解いた。リボーンの顔は見れなかった。
好きってなんだろうと、頭のなかでいつまでもいつまでも考えていた。
クラスの女の子たちは、みんなリボーンのことを好きだという。顔を合わせながら密やかにリボーンのことについて話し合い、オレを使ってリボーンのことについて聞き出そうと輝いた目をしてやってくる。みんなみんな、リボーンのことを好きだという。
その気持ちが働いて、女の子たちは時には別人のように可愛くなるし、時にはふるえるほど恐ろしく冷たくなる。その気持ちはとても敏感で、リボーンと一緒にいることでオレにも向けられる。気に入らないと、視線と、声と、発せられる雰囲気がちくちくとオレに突き刺さる。オレはそのとき、女の子たちの理不尽な仕打ちにたまらない気持ちになる。
オレだって、オレだってみんなと同じように、リボーンのことを好きなのに。
生々しく、ぎらついた下心ものぞかせながら、女の子たちはふんわりとした愛くるしい目でリボーンを見る。
借り物競争の白いカードを拾ったとき、女の子たちはその目をリボーンに向け、一直線に向かっていった。ありったけの勇気を振り絞り、リボーンに声をかけたに違いない。
オレだってそうしたかった。でも女の子たちの、リボーンには決して向けられない冷ややかな視線と声と雰囲気に耐えられるほど、オレは強くできていなかった。
本当に、本当に恥ずかしかった。
どうすればいいのか分からないでいたら、結局リボーンに助けてもらい、オレの身体には冷たい気持ちがびしびし突き刺さってきた。
みんなオレの気持ちを知らないくせに。
好きと言って、好きと言われて、そうして幸せな気持ちでいたいだけなのに、どうしてそんな人を傷つけるような態度でオレを睨みつけるのか。
リボーンと好きあっていて、何が悪いのか。
みんなのように繊細で瑞々しい気持ちではないのかもしれないけど、オレはリボーンと一緒にいるだけであたたかい気持ちになるし幸せだ。それの何が悪いのだろう。どうして非難するような目でオレを見るのだろう。

「放課後、体育館裏で待ってます」

朝、昇降口の下駄箱にひっそりと忍ばせてあった一通の手紙は、いつもリボーンがもらっているラブレターだと思った。うぬぼれかもしれないけど、差出人はオレに好意を持っているのかもしれないと思って、うれしかった。
だって少なくとも、その人はオレのことを嫌っていない。オレは、それだけで十分うれしい。
山本が応援席のブルーシートの上で話しかけてくれたことも、リボーンが目的だとしてもクラスの女の子たちが話しかけてくれたことも、オレにとっては奇跡みたいにうれしい出来事だった。小さいころから、いつも人の中心にいて、みんなから好意を寄せられるリボーンと違い、オレは空気のように扱われ、関心を持たれないことが多かった。情けないけど、そういう人間は他人に構ってもらえることが特別のことのように思えてくるのだ。クラスの女の子たちは、オレのことに関心のない人たちは、オレのそういった気持ちには、決して気づいてくれないだろう。
リボーンだって同様に、オレの情けない気持ちはオレから話さない限り正確につかみとれることはないんだろう。
放課後、オレは体育館裏に行って、まだ名前も顔も知らない人から、どんな話を聞くのだろう。オレと、どんな話をするのだろう。

「ツナ」

今にも降り出しそうな雲の下で、リボーンが呼んだ。

「昼飯、どこで食う?」
「どこでもいいよ」

体育祭のプログラムが半分終わり、お昼休憩に入ったときだった。生徒たちは一斉に教室へ向かい、お弁当を取りにいく。今日はどこで食べても、誰と食べても許される特別なお昼だった。

「あのな」

お弁当のことしか考えていない生徒たちの人混みのなか、リボーンはオレの顔を見て言った。

「ほんとは俺、朝イライラしてた」

オレとリボーンが並んで歩いていても、頭のなかがお弁当の女の子たちはオレたちのことにあまり関心がないようだった。

「知ってるよ」

オレはうまく笑えていただろうか。

「で、なんでイライラしてたの」
「…いや」
「なに」
「べつに」
「…なにが言いたいの」
「ごめんって謝りたかった」
「あーそ」
「…なんだよそれ」

少し心が晴れた。
オレはリボーンの苦々しそうな顔を見て、もう何度目だか分からないけど好きだと思った。

「リボーン」
「なに」

リボーンの全部が好きだと思う。

「リボーン」
「なんだよ」

べつに、と返すと、リボーンは不思議そうな顔をして、それからくすぐったそうに笑った。





2013/02/18

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