中学生リボツナ23



トラックの向こう側で、綱吉がひとり立ち尽くしていた。すさまじかった応援席の声援に勢いがなくなり、注目は綱吉に集まった。すこしずつ、声援からざわめきへと変わっていく。
綱吉は一枚のカードに目を落としたまま動かない。ざわめきが大きくなっていく。

「ツナ?」

百メートル走と同様に、隣にいたコロネロも綱吉をいぶかしげに見つめていた。スタート待ちしている男子生徒たちも、綱吉の異変に気がつき始めた。体育祭の空気がひんやりと、気まずそうに冷めていく。
応援席側にいたひとりの教師が動き、綱吉に声をかけようと歩みよった。

「な、どうしたんだよあいつ」
「さあ」

教師に声をかけられ、びくりと綱吉が顔をあげた。しかし教師に目を合わせることができないのか、逃げるようにして頼りない顔をこちらに向けた。小さなトラックを挟んで、綱吉と目があった。うぬぼれでもなく。
リボーン。
確かに聞こえた気がした。

「え、ちょっと、おい」

俺は立ち上がって、スタート待ちの列から外れた。周りの注目も俺に向けられていく。気にせず走ってトラックのど真ん中を横断した。綱吉のそばにより、目があうとその複雑な表情に心のなかが笑いたくなった。

「先生、大丈夫です」

親切でおせっかいな三十路教師に一言告げ、俺は綱吉の手を引いて走り始めた。綱吉はなにも言わなかった。ただ黙ってついていった。
応援席側からは悲鳴のようなものが聞こえた。ぎゃあ、とか、リボーン君、とか、やだ、とか聞こえた。
綱吉の、綱吉の気持ちを傷つけるようなことはしないでほしいと、走りながら思った。

「好きな人って書いてあったんだろ」

遅すぎるゴールを目前に、俺は引っ張られる綱吉を振り返って見た。

「…うっさい」

綱吉の顔は真っ赤になっていた。

「はやく俺のとこ来れば良かったのに」
「…はずかしかった」
「は?」

ゴールした。

「…好きってなんだろうとずっと考えてた。そんな自分がはずかしくなってきて、頭が真っ白になった」

さっと繋いでいた手を離して綱吉は小声でつぶやいた。
俺はとっさに今朝のことを思い出していた。
ラブレターの可愛らしい便箋のこと。
綱吉のまんざらでもなさそうな態度のこと。
綱吉に告白するかもしれない見えない女子の存在のこと。
…その後の綱吉と見えない女子の未来のこと。

「お前、なんて返事するの」

そんなことすら聞けない自分に腹が立ったこと。





2013/02/11

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