中学生リボツナ20



はやくも6月に入りまして、梅雨の季節になりました。なかなか天候が定まらない、ぐずぐずとした毎日が続いております。みなさまはいかがお過ごしでしょうか。
我が中学校では、体育祭の時期になりました。いいですねー、体育祭。好きな人も多いのではないでしょうか。青春どストライクのみんな大好き体育祭。まぁ僕は嫌いですけど。だって運動苦手だし。そんな明るい行事を楽しめるほど、僕は社交的ではないし。
僕改めーーーオレ、沢田綱吉は、体育祭の前日も緊張することなくぐっすりとねむり、いつも通り遅刻ぎりぎりに起床した。部屋のカーテンを引くと、どんよりとした景色が町をつつみ、頭上にはたっぷりと分厚い雲が太陽光の邪魔をする。いまにも雨が降りそうだ。だけれどこの程度では決して体育祭中止の連絡網は流れてこない。もう一度寝てしまいたかった。
部屋を出て階段を降りると、朝ご飯のいいにおいと母さんの「おはよう」がきもちよく流れこんできた。

「おあよ」
「遅いわよ、ツッ君。リボーン君はとっくに朝ご飯食べて行っちゃったのに」
「あれ、リボーンここでご飯食べたんだ」
「やだ、顔くらい洗ってきなさいよ、もう」

よたよたとテーブルの席につく。母さんはもう一度、もう、と難しい顔をしてぴかぴかのご飯をよそってくれた。

「リボーンね、クラスの団長だから色々あるのかも」
「へえ、そうなの。リボーン君すごいじゃない」

母さんが誇らしげに笑う。

「断るのがめんどくさかったんだって」
「断る理由なんてないじゃない。やだー、写真撮りたかった」

あったかいみそ汁をすする。

「オレが撮ってこようか」
「え、ほんとに?ありがとう」

あ、それと、ついでにね、と、母さんは続けた。

「お弁当、リボーン君に渡すの忘れちゃったの。悪いんだけど届けてくれる?」

ずずず、とみそ汁をすする。
よく見てみると、テーブルの上には大きなお弁当箱がふたつ、行儀よく並んでいた。






学校の校門前に、リボーンがいた。もう体操服に着替えてあって、半袖シャツにジャージという出で立ちが健康的でまぶしかった。正直に言うとあまり似合ってない。どつかれるから言わないけど。
リボーンが片手をあげて「おはよう」と言った。その脇には校門の柱に立てかけられたら看板があり、そこには立派な黒字で「第四十五回並盛中学校体育祭」と書かれてあった。暗号かと思った。

「どうしたの」

とオレは言った。一人きりで校門前にいるのはとても目立つ行動だった。

「別に、」

とリボーン。

「朝、お前を置いて学校行っちゃったなって思って」
「いいよ、そんなの。クラス団長、忙しいんじゃないの?」
「朝の話し合いは終わったから」
「へえ」
「荷物持とうか」
「いらない」

校門から校舎はすぐそこだった。灰色のどんより雲を、オレは見上げた。
オレは、もしこの雲から雨が降ってたら、リボーンは同じように外で待っててくれたのかなとふと思った。むなしい妄想だ。でもオレのこと心配して気づかってくれる人がいることは、とても貴重なことだと思う。普段一緒にいるからいつの間にか埋もれてしまいそうな奇跡だけど、いつまでも意識して忘れないでいたいと思う。ありがとうとか、そんなの恥ずかしくて言えないけれども。
昇降口に入り、薄汚れた運動靴を脱ぐ。同じようにしてリボーンも脱ぐ。リボーンの靴は、いつだって綺麗だった。

「雨降るかな」
「さあ」

脱いだ靴を拾い上げ、自分の出席番号のシールが貼られた靴箱を勢いよくあける。ステンレスでできた靴箱は、ほどよく歪んで非常に開けづらくなっていた。
オレの靴箱は、右から四番目、上から数えて二番目の好位置だった。わざわざ腰をかがめなくても靴の出し入れができる。
オレは、いつものように上靴を取り出し、運動靴を中につっこもうとして上靴に手をかけた。
すると、変な感触があった。手を引っ込める。目を凝らし、これまた薄汚れた上靴の上に置かれたものを確認して、オレはひっくり返りそうになった。

ーーーお手紙だった。

いつまで経っても靴を履き替えないオレに、リボーンが気がついた。

「なにしてんだよ」

リボーンは横からオレの靴箱を覗き見た。

「…手紙じゃん」

学校の、始業チャイムがオレの頭をたたいた。

「遅刻だ!」
「いいから」

リボーンが駆けだすオレの腕をつかむ。その手から運動靴がぽろぽろとこぼれた。すごい力だった。

「そのまま教室行ってどうすんだよ」
「あ、そうだった」
「開けてみろよ」

いつにも増して威圧感のある声だった。

「…なんかで怒ってる?」
「怒ってねぇよ」
「遅刻なんだけど」
「いいから、誰からだよ」

恐る恐るその手紙を取り出してみる。まぶしかった。可愛らしい封筒に、オレの顔はみるみる熱くなっていった。

「…沢田くんへって書いてある」
「中身は?」
「お前…プライバシーもへったくれもないな」

ハートのシールを丁寧にはがし、中の便せんを引き抜いた。心臓がどうにかなってしまいそうだった。痛い。ちなみにつかまれたままの片腕はもっと痛い。

「えっとね」

たった一枚の便せんには、たった一言書き記してあった。

「放課後、体育館裏で待ってます」

ひかえめな、可憐な文字だった。まぶしすぎて、オレは目眩がした。

「お前にもこういうことがあるんだな」

冷たいリボーンの声がした。
失礼な、と言い返そうとしたら、リボーンはあっさりと腕から手を放し、さっさと一人で教室のほうに行ってしまった。

「いってらっしゃい」

下は靴下のまま、オレはリボーンの冷ややかな言葉を受け取った。
なんでつんつんしてんだろうと不思議に思ったのと同時に、母さんから頼まれた弁当箱のことをいまさら思い出す。
床に散らばった運動靴を拾い上げる。片手に運動靴、片手にお手紙。
現実味のない朝だと思った。
誰もいない昇降口の靴箱の前で、オレは靴を履き替えて、奇跡みたいなお手紙を鞄の底にそっとしまった。
先生になんて言い訳しよう、と考えながら。




2012/11/17

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