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鳴り止まない雷の音を毛布越しに聞きながら体を最小限にまで縮こまらせて、ベッドの中で蹲る。小さな雷ならどうってことはないのだが、あちこちに落ちるような激しい雷にはいくつになっても慣れないのだ。またぴかりと閃いた雷に目を瞑っていると、轟音の合間に玄関の開く音がした。続いていねェのか、と言う聞きなれた声がして、ここだよー!と声を張り上げればその人物は寝室へと入って来た。
「亀かよ」
「う、うるさい。いらっしゃい、プロシュート」
恐る恐る布団から顔を出して声の主を見上げれば、綺麗な金髪から水をしたたらせているプロシュートが立っていた。濡れたせいで落ちてきた髪を掻き上げるプロシュートがやけに色っぽくて思わず見惚れていると、にやりとその口角が吊り上っていくのが見えた。
「水も滴るいい男、だろ?」
「っ、自分で言わないでよ」
まさに文字どおりなのだけれど、ドヤ顔でこちらを見てくるプロシュートに素直に頷いてやるのは悔しかったので再び毛布の中に潜り込む。それを見止めたプロシュートが思いっきり毛布をはぎ取ってしまった。
「うわあああ!何すんの!やめて、かみなりこわい!」
「ガキか。雷とオレ、どっちとるんだ?ん?」
毛布を部屋の反対側辺りへ器用に投げ飛ばして、私の顎にそっと手を掛ける。近すぎる距離に心臓が高鳴るけど、外に見える鋭い閃光にも違う意味で心臓が高鳴った。艶やかに笑むプロシュートの問いにどう答えたものかと思案していると、一際強く雷が光った。その時に水滴のついた髪の毛が目を瞑るほどに美しく煌めいて、思わず嘆息する。それに気が付いたプロシュートがなんだ、と私の頬を引き寄せた。
「何呆けてやがんだ」
「プロシュート、髪の毛すごくきれい……」
「あぁ?」
あまりにも予想外の答えだったらしく、整った顔が間抜けに歪む。それには構わず、湿っている金髪にそっと手を伸ばせばぱしりと腕を掴まれてしまった。
「どうした急に」
雷に怯える様子も問いに戸惑う様子もなくなったからか、訝しげにプロシュートが問い掛けてくる。なので光を反射した髪が綺麗だったことを話せば、呆れたように彼は笑った。
「なんだよそれ」
「いいじゃない。ね、髪の毛解いて?」
体を起き上がらせてベッドに腰掛けるプロシュートの隣に座り、見上げるようにしてお願いしてみる。すんなりと了承したプロシュートは、不思議な形に結わえられている髪の毛を解いていった。ぱらりぱらりと肩に垂れていく髪の毛が未だに光り続ける雷を反射して、これまた綺麗に輝いている。すべて解き終わった髪を、ベッドサイドから取り出したタオルで丁寧に拭きながらぽつりと呟く。
「やっぱり、子供は金髪がいいなぁ」
「はぁ!?」
突拍子もないことを言ったからか、ぎょっとした顔でプロシュートが振り向いた。それに私も驚いてタオルを取り落してしまった。慌てて拾おうとすれば、また腕を掴まれてしまった。どうしたのかと顔を上げれば、そこには余裕そうに見えて、少し動揺している顔があった。
「え、」
「それは、オレとの子供って意味か?」
「……そう、だよ」
にやりと感情の読めない瞳で笑ったプロシュートに一瞬戸惑ったものの、そう答えれば何かを堪えるように目を逸らして呟いた。
「プロポーズもしてないのに、か?」
「してくれないの?」
挑発するように、けれど少し不安を抱えながら尋ねてみる。これで、そんな気はない、とか言われたら立ち直れない。段々と膨らむ不安に身を食われつつプロシュートを見上げれば、驚いたようにこちらを見ていた。その反応にこちらのほうが驚いてしまう。
「、何?」
「……してもいいのか?」
「……しちゃダメな理由のほうがない気がする」
「お前、オレの仕事知ってんだろ?」
じわじわと少し悲しみに淀んだ目がこちらを見据えていて、なるほど、と一人納得する。要するに、彼は自分の仕事を気にしているわけだ。けれどそんなものに私の恋路を邪魔されるなんて冗談じゃない。
「知ってるけど、そんなことでプロシュートを諦めたりなんか私はできないよ」
「、なまえ」
「雷とどっちがいいとかさっき言ってたけど、私は、プロシュートがいいの」
ふわりと微笑んだ瞬間、再び窓の外で激しく雷が光った。泣きそうに歪んだ顔と長く下ろされた髪の毛が、綺麗な輪郭を見せて再び煌めいた。それを視界に見止めたと思ったときには、私はもう彼の腕の中にいた。
「なまえ、なまえ」
「う、え、苦し、」
「グラッツェ、愛してる……!」
いつになくはしゃぐプロシュートはなんだか可愛くて、腕の力はこの際気にしないことにしてあげた。またプロポーズは改めてする、とおでこを引っ付けて笑うプロシュートに、雷が大好きになる予感があった。