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窓ガラスを叩く音にふと顔を上げると、雨が降り出していた。そういえばベランダに洗濯物を干しっ放しだった気がする。ひとつ溜息を落として、冷えた紅茶を煽ると読みかけの本にしおりを挟んで立ち上がる。今何時だろうかと階段横に掛けている時計を見れば、まだ昼を少し過ぎたくらいだった。



「まだ来ないのかなぁ……」



昨日電話で今日会う約束をした恋人は、今朝急な仕事が入ったので午後にこちらに向かうと電話を寄越して、手馴れたように謝罪と愛とを囁くと早々に電話を切ってしまった。それに初めこそ拗ねたりしていたものの、最近ではすっかり私も慣れてしまったしちゃんとそこに愛も感じるので、少し寂しくは感じるけれどどこか割り切れてもいた。



「うわああ激しくなってる……!」



ベランダを覗けば先程よりも雨脚の強くなった雨粒が窓を叩いていた。急な雨にうんざりしながらも、慌てて洗濯物を取り込みにベランダに出る。激しく打ち付ける雨に少し目を閉じながら洗濯物を抱きかかえると、一瞬視界の端に見慣れた姿が見えた気がして、少し下を覗いてみた。



「ホルマジオ!」
「よぉ、入ってもいいか?」
「どうぞ。……あ、タオル持ってくね!」
「グラッツェ」



そこには待っていた恋人の姿があって、思わず胸が踊る。ホルマジオが玄関に向かって歩き出したのを確認すると私もさっさと中に入って一階に駆け降りる。洗濯物を近くの椅子の上に投げ出してバスタオルを抱えると玄関に向かって走り出した。



「いらっしゃい!」
「おう、悪ィな」
「ううん」



それが遅れたことに対しての言葉なのか手渡したバスタオルに対しての言葉なのか測りかねたけれど、どちらももう気にしていないので首を横に振った。濡れた体を拭いていくホルマジオをにこにこと眺めているとふと私も濡れていることに気が付いたホルマジオがばさりと私にそのタオルを寄越した。



「なまえも濡れてんじゃねェか」
「あ、いいよ、私は別の出すからこれはホルマジオが使って?」



そっとホルマジオの頭にバスタオルを乗せて笑うと、自分のタオルを取るために部屋に引き返す。ホルマジオが来てくれた嬉しさで気づいていなかったが、少しの時間しか出ていないのになかなかにびしょ濡れだった。さらに体も冷えてきていたので暖房を強くする。そしてホルマジオはもっと冷えているんじゃないだろうかと今更ながらに気が付いて、慌てて振り返ればついて来ていたホルマジオが上のシャツを脱いでいるところだった。



「うわああ!変態いいい!」
「んだよ、こんくらいで喚くな」
「目に悪い!」
「シャツ濡れて気持ち悪いんだから許せっての」
「じゃあ前ホルマジオが置いていった着替え持ってくるから、お風呂入っておいでよ」



気持ち悪く感じるほど濡れているということは、きっとだいぶ体も冷えているはずだ。ぐいぐいと背中を押してホルマジオを浴室になんとか詰め込むと、シャツを探すべく背を向けた。きっとそれが悪かったのだ。後ろから急に腕を引っ張られて、奇声に近い声を上げながら後ろに倒れ込む。ぽす、と後頭部が堅いけれど柔らかい何かにぶつかった。



「お前も濡れてんだから一緒に入りゃいい」
「おかしいおかしいおかしい!なんでそうなるの!」
「いや、お前も暖かくて、オレも嬉しい。ほら一石二鳥だろ?」
「意味わかんない!嬉しいとかやっぱり変態じゃない!」
「そりゃどーも」



ひらひらと言葉を躱して彼は無理矢理私を浴室に引っ張り込んだ。しばらくして無駄だと悟って抵抗をやめて大人しくされるがままにすれば、それでいいと抱き締められて頭に優しいキスが落ちてきた。それに笑いながら上を向けばホルマジオも幸せそうに笑っていて、さらに笑みを深くする。お互いを抱きしめあって触れ合った唇から熱が侵食していくのを感じながら、雨音が弱くなるのを聞いていた。



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