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閑散とした夜の公園のベンチに座って、ぼんやりと空を眺める。そこには澄んだ空気を通して、視界いっぱいの星が輝いていた。やっぱり冬の夜空は格別に綺麗だと思う。寒いけれど、それに見合うだけの綺麗な、夜空。凍える手を擦り合わせて、唇で弧を描きながら息を吐いた。



「おら」
「あ、ありがとう」



見上げていた視界にずずいと無遠慮に入り込んできた大男は私に缶ココアを手渡した。承太郎は無言で私の隣に座ると、同じように空を見上げた。缶コーヒー片手に首を傾けるその横顔はなかなか様になっていて、見てしまったことを少しばかり後悔した。かっこよすぎるよね。



「で、こんな夜に呼び出してどうしたの?」
「…………」



実は時計は既に短針が11を過ぎた辺りを指している。どう考えたって、簡単に外出をしていい時間ではない。というか私たちは高校生なので警察に見つかっちゃえば補導されちゃいます。それだけは避けねばならない。よって承太郎くんには早々に用件を話していただかないとものすごく困るのだ。



「ねえ承太郎、今何時か知ってる?」
「ああ」
「よし、で、話とは?」
「……」
「……あああ!もう、なんでそこは黙るのよ!」



本題に入ろうとすればすぐに視線を逸らして再び無言になってしまう。そんな承太郎にいい加減痺れを切らして強行手段だとばかりにベンチから立ち上がった。帰ってやる、と意気込んで一歩を踏み出そうとすれば、後ろから伸びてきた腕によってそれは阻まれてしまった。



「……帰るな」
「どうして。だって用事ないんじゃないの?」
「……用があれば帰らないんだな?」
「うん、まあ」



そう答えれば、後ろから私を抱きしめたまま承太郎が深く呼吸をしたのがわかった。何をそんなに緊張しているんですか、なんて余裕ぶって考えてみるけど、実は心臓がばっくんばっくん言ってて正直死にそうである。



「……用じゃ、ないんだが」
「なにそれ」
「まだ一緒にいたいから帰るな」
「っ、なにそれ」



ありえない台詞に無理矢理振り向けば、顔を赤くした承太郎がいて、それが伝染したように私の頬まで熱くなる。慌てたように承太郎が私の視界を奪うけれど、しっかりと見てしまったので大して意味などなかった。



「え、え、承太郎熱ある?」
「……ない」
「じゃ、もしかして照れて 、」
「やかましい」



ぐい、と再び体に腕が回されて今度は真正面から抱きしめられる。やばいやばい、これは心臓に悪すぎるんじゃないだろうか。というか今日は何かの記念日だっただろうか。あれ、けど承太郎ってそういうの気にするっけ。
ぐるぐると回らない頭で考えてみても、結局答えは出なくて、承太郎の胸元からもごもごと声をかけてみる。



「今日、記念日か何か?」
「違ェ」
「じゃ、じゃあなんで、」
「特別な日じゃねェと、テメェにこういうことしちゃいけねェのか」
「ちがっ、う、けど……」
「じゃあ黙って抱き締められとけ」



ぎゅうううと強くなる腕に体が痛いくらい締め付けられたけど、それよりも嬉しさのほうが強くてむしろ心地良いくらいだった。肩口に頭を埋めながらなまえ、と何度も名前を切なげに呼ぶ声に耐え切れなくなって、いつの間にか強く握り締めていたココアを投げ捨てて、代わりに承太郎の背中に思いっきり抱きついてみた。



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