5000hit | ナノ

「わあ、雪!」



空を見上げて嬉しそうな声を上げたなまえは、繋いでいない方の空に翳した。気持ちが沈みそうな曇天さえも、雪が降るだけで笑顔になれるものらしい。可愛いなあと思いつつ、道理で寒いわけだ、と呟けばなまえが手袋に落ちた雪を見ながら笑った。



「仗助は、寒いの嫌い?」
「まあ、好きじゃねェな」
「雪は?」
「嫌いじゃねェ」
「はっきりしないね」



なまえはオレの返事をくすくすと笑いながら雪と一緒に払い落とした。空からはらはらと零れる雪は、ぼんやりと見上げれば中々に幻想的だった。集めて溶かせばほこりでにごった水なのに、どうしてこんなにも真っ白いのだろう。

にこにこと上機嫌で靴を鳴らすなまえを見れば、頭の上に薄らと積もっていた。それさえも愛らしくてふ、と笑えば気が付いたなまえが不思議そうにオレを見上げる。



「どうしたの仗助」
「いや別に。雪積もってんぜ」
「え、嘘!」



慌てて頭に手を遣って払い始めるが、さらに降り注ぐ雪のせいであまり意味がないようにも見えた。それを笑っているとなまえがムッとした顔で見上げてきた。



「仗助だって積もってるかもしれないじゃん」
「かもってなんだよ、かもって」
「だって仗助背が高いからわかんないもん」



じーっと見上げてくるなまえとは、確かに頭一個以上の差がある。まあ、頭の上なんか見えはしないだろう。拗ねたような目で見てくるその顔はあまりにも可愛くて、またにやけそうになるのを押さえながら少ししゃがんでみる。



「ほら、積もってるか?」
「わ、すっごい積もってる」



途端に楽しそうに笑い始めたなまえにそうかよ、と笑い返せば、私が払ってあげる、と少し背伸びをしながらそっと手を伸ばしてきた。髪に触られるのはあまり好きではないが、なまえは特別だ。嫌に思ったことはない。やりやすいように頭を斜めに傾けて目を閉じた。



「ふふ、終わり」
「さんきゅ」



少し斜めに下げていた顔を上げれば予想以上に近くて、なまえの頬が寒さ以外で染まったのがわかった。あいも変わらずこんなことにさえときめいてくれるなまえは、愛しい。頬に手をやれば、あからさまに肩を跳ねさせた。それに気付かなかったかように顔を近づけていけば、ぎゅううと力強く目を瞑るのだからさらに、愛しい。
少しばかり悪戯心が動かされて、口付てなまえの口内へ舌を滑り込ませると、驚いたように目が見開かれた。そのこぼれ落ちそうな目をしっかりと見つめながら舌を絡ませれば、恥ずかしそうに再びその目は閉じられて、代わりに抗議するように声を上げた。



「ん、んんん!」
「はっ、んだよ」
「こ、こ……道端!」



唇を解放してやった途端距離を取られて、キッと睨まれてしまった。そういえばそうだった。今は下校中なのだ。仕方ねェーなと呟けば、何が、と再び睨まれてしまった。誤魔化すように肩を竦めれば、なまえは一つ溜息を溢して、帰ろう、と言ってさっさと歩きだしてしまった。

なんだかんだでずっと繋いでいた手が離れてしまったことに気が付いて慌ててなまえを追うと、その手を掬い上げた。まだ何かするかとばかりに睨み上げられたが、二カッと笑って暖かいだろ、と言えば諦めたように笑って、そうだね、と握り返してくれた。そんな些細なことさえ幸せで、どうしようもなく愛しいのだから、オレはきっとバカか何かになったんだと思う。それでも握ったままの手が愛しいので、とりあえずなんだってかまわない気がした。



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -