1000hit企画 | ナノ

▼ たまには

※盛大な捏造あり!花京院君が生きて帰ってきてるけど大丈夫って方はどうぞ!



久々に典明の家にやってきた。来週から始まるテストの詳細を教えるためである。暫らく承太郎と共に学校を休んでいた彼は目に大きな傷を作って帰ってきた。最初見たときは心臓が止まるかと思うほどだったが、承太郎もたくさん傷を作っていたし、彼のおじいちゃんもまた然りだったので、もしかしたら命を落とさなかっただけよかったのかもしれない、と無理矢理自分を納得させて今ここにいる。ピンポーン。私の重い心境とは裏腹に軽いチャイムの音が鳴り響く。どたどたと慌ただしい音がした後、扉が開いて典明が顔を覗かせた。
「いらっしゃい」
「やっほ、おじゃまします」
なんとか笑顔を作って家に上がらせてもらう。差し出されたスリッパ(うさぎ)に足を突っ込む。これは典明のお母さんの趣味なのだろうか。男性客用には犬があるらしい。どうでもいいか。ぱたぱたと音を立てながら階段を上がって典明の部屋に入る。持って来ていた手土産を渡せば、別にいいのにといいながら、ありがとうと受け取った。少し待っててね、と言ってそのお菓子を持って下に降りていく。手持無沙汰になって部屋をぐるりと見渡せば、一枚の写真が目に入った。そこには、典明含む屈強な男五人と、一匹の犬が写っていた。誰もが、楽しそうに笑っている。あ、犬だけ不本意そうな顔をしている。典明の目に、傷はなかった。最近の写真だろうか、と近寄って見ていると、扉の開く音がした。
「なまえ?」
「これ、最近撮ったの?」
「ああ、この長い休みの間に」
ふーん、と振り返ることなく写真を眺めていると、突然後ろから抱き締められた。典明?と呼びかけてみるが反応はない。写真を元に戻して、回された腕にそっと手を添える。
「どうしたの?」
「それはボクの台詞だ。ここに来てから君はずっと寂しそうだ」
その言葉にどくんと心臓が跳ねた。気づかれて、いた。妙な罪悪感を抱えて動けなくなっていると、首元に埋められた典明の頭が、言葉を続ける。
「目に傷がついたボクは、もう嫌かい?」
更に核心に迫るような言葉に息が詰まってしまう。けれど、嫌なわけなどない。こんなにも好きなのに、と胸が叫ぶので、何とか体を捩って、典明の顔を見上げる。今にも泣き出しそうな顔でこちらを見下ろす典明に、私も泣きそうになる。そっと目元に手を伸ばせば、彼はびくりと肩を揺らした。
「嫌い」
「……え?」
今度こそ目を見開いて、顔全体に悲しみを滲ませた典明は、絶望したように私を見た。
「傷つく典明を見るのは、大っ嫌い」
そこまで言って、呆気に取られている彼の顔をぐいっと引き寄せると、傷をなぞる様にキスをした。ぎゅっと閉じられた目蓋にも、口付ける。
「典明が、傷つくのが、何よりも怖いの」
「なまえ、」
「あなたを嫌いになんかならないよ、だって、す」
き、と続けようとしたけれど、その言葉は彼の口の中に飲み込まれてしまった。少し目を潤ませながら、啄むような優しいキスを何度も典明は繰り返す。強く強く抱き締められて、足は爪先立ちの状態になるし、少し腕が痛い。
「あり、がとう」
ようやく唇を解放してくれた時に、ぽつりと彼は呟いた。傷をなぞるように流れる涙を拭ってあげる。
「っく、ごめ、カッコ悪いから見ないで」
再び私を胸の中に強くしまって、彼は嗚咽を上げる。そっと黙って彼の背中に腕を回して、何度もぽんぽんと叩く。
「好きだよ、典明。飾らないあなたが大好き」
「う、ん、ボクだ、って、君が好き、だ」
何度も好き、好き、と繰り返す典明を抱きしめながら、私たちは勉強のことなど忘れて立ちすくんでいた。


たまには立ち止まることもある
(その度に)
(お互い背中を押しあえばいい)



――――――
企画参加、ありがとうございました!
「花京院、目の傷ネタで甘」捏造ネタでも構わないということでしたので、お言葉に甘えさせて頂きました!あの傷、痛そうでしたよね。結構自由に書かせて頂いたのですが、いかがでしょうか?もし、気に食わないところ等がございましたら何なりとお申し付けください!
長編の続きが気になるなんて、ありがとうございます!ガンガン更新していく予定ですが、私もどうなるか冷や冷やしています!(
それでは企画参加、本当にありがとうございました!また機会があれば、ご参加ください!

121205 トレオ


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