1000hit企画 | ナノ

▼ 効果はバツグンだ

「ねぇねぇ、そこのシニョリーナ、今暇?」
 一瞬誰のことかわからなかったが、振り返った際に見えた男がこちらをじっと見ていたことから、自分が話しかけられたのだと気が付く。
「えっと、暇ではないです……」
「じゃあ、少しだけでいいからオレとお喋りしない?」
「あ、いや、ちょっとそれも……」
じゃあ、としつこく食い下がってくる男にどうしたものかと困りきる。別に冷たく突き放してもいいのだが、もし逆上されて手を上げられてしまったら流石に怖いので、できれば遠慮したい手段だ。仕方なく、すいません、と言って強行突破しようとすれば、横の細道から別のお兄さんたちが現れた。
「おい、何やってんのよ?」
「ナンパ?ならオレらも参加するー」
「かわいーじゃん」
運が悪いことにぞろぞろと現れた彼らもどうやらナンパ男のお仲間だったらしい。中々の人数になったそいつらに、周りを囲まれてしまった。少し恐怖を煽るその光景に、女の子を怖がらせるようなナンパなんて、イタリア男として許されないんじゃないだろうかと思う。
「あの、急ぐんで、道を譲っていただけませんか?」
「しつこいよシニョリーナ!少しくらいいいじゃない!」
しつこいのはどっちだよ、と言いそうになるのを耐えつつどうしたものかとぐるりと見渡す。いつの間にか更に人数は増えていたらしく、これはちょっとした集団リンチの絵図なんじゃないだろうか。そのうち最初に声を掛けてきた男が、ぐいっと私の腕をつかんで引っ張った。ニヤニヤと目の前で笑う男が、気持ち悪い。この人数では明らかに不利だけれど、もう我慢も限界でまず目の前の男から伸してやろうとした瞬間、私たちを囲んでいる集団の後ろの方が騒がしいことに気が付いた。ちょうど同じタイミングで男も気が付いたらしく、後ろを振り返るべく体勢を起こした。それによって奥の方まで見えて、何が起こっているのか理解した私は目を見開いた。
「うわ、なんだアレ!」
「ギアッチョ!」
どんどんと氷漬けになっていく男の仲間たちに、目の前の男の顔が引き攣っていく。更にはその男たちを押しのけながら進んできたギアッチョを見て、男は顔面蒼白になる。まあ、どう見ても堅気には見えないものね。
「てめーよォ〜、誰に手ェ出してんだ?あ?」
「あ、あぁぁ……」
「その手離しやがれってんだッ!」
「う、あ、あああああ!」
目の前まで近づいてきたギアッチョが、私を掴んでいるのと反対側の男の腕を掴んでじわじわと凍らしていけば、男は情けなく悲鳴を上げて、何度も足を滑らしながら逃げて行った。他の仲間たちもすでに逃げ出していたらしく、ここには私とギアッチョと、氷漬けにされた何人かの男たちしかいなかった。
「なまえ!てめー、何絡まれてやがんだ!」
「え、それ私悪くないよね?」
ぎろりと目を剥きながら睨んでくるギアッチョに少し後ずされば、舌打ちをして腕をがしっと掴まれる。と思ったらそのままギアッチョは細道の方へすたすたと歩き出してしまった。途中でキレるのをやめるのも珍しい、と思ったがふと周りを見ると、騒ぎを聞きつけた野次馬たちが集まっているのが見えた。なるほど、確かにあそこに長いこと居ると分が悪いかもしれない。
「ギアッチョ、」
「……なんだ」
「助けてくれてありがとう」
そういって握られているだけだった手を、自分からも絡めとる。ぴくりとギアッチョの肩が跳ねた。それを見て少し笑いながら、けど、と疑問が浮かんでくる。どうしてギアッチョは絡まれているのが私だと分かったのだろうか。確か周りは一面男たちの仲間に囲まれていたし、そんなに大声も出していなかったはずだ。考えれば考えるほど謎で、ギアッチョに連れ込まれた行きつけのカフェに入って席を取って飲み物だけ注文すると、取り敢えず聞いてみることにした。
「ねぇ、ギアッチョ。どうして私だってわかったの?」
「あ?何がだ?」
「絡まれてるのがだよ」
「あー……」
珍しく歯切れの悪いギアッチョを、どうしたのだろうか、と見ていると、あーとかうーとか唸りながら百面相をした後、顔を真っ赤にしながら唐突に怒鳴りだした。
「つーかてめーも!ぼんやりしてっから絡まれるんだよ!」
「え、私ぼんやりなんかしてなかったよ」
「嘘つけッ!ずっと服屋のショーウィンドウなんか見てぼやーっとしてたじゃあねーかッ」
「そういえばそうだったかも……、って、なんで知ってるの?」
「ッ……!?」
墓穴を掘ったとばかりに真っ赤になるギアッチョに思考を奪われる。もしかして、と少し馬鹿げたことを思いつくけど、まさか、と思って一応聞いてみる。
「もしかしてギアッチョ、ついて来てたの?」
「た、たまたま向かう方向が同じだっただけだ!」
「……ギアッチョ、あっちに用のあるところなんかないよね?」
「〜〜ッ!」
ついに詰まったギアッチョが、首まで真っ赤になってしまった。まさかつけられているとは気付かなかった。
「……てめーがひとりで買い出しに行ったっつーからよ、」
「うん」
「今日はたまたま暇だったから荷物持ちくらいしてやろうと思ってついてったんだよ」
「うん、ありがとう」
「っ、つーか最初っから出かけるならオレを呼びやがれ!気になって……る、わけじゃあねーけど、いや、別に、ってあああもう!」
突然一際大きな声を出して唸ったかと思うと、これでもかっていうくらい見えている肌の部分を真っ赤にしながら席を立つと、私の肩に掴みかかった。何事かと、店中の人がこちらに目を遣る。さっきまでいつものことだと大様に構えていたマスターも、さすがに慌てたように駆け寄ろうとしていた。
「心配するだろーがよォ!」
「なっ……!」
かつてないほどのデレを見せたギアッチョに、私まで顔が真っ赤になる。マスターも他のお客さんもこちらを見て固まっている。
「てめーはひとりで居させると危なっかしいっつーかよ、兎に角!心配なんだっつーの!」
そう言い切ってぐいっと私を引っ張ると、ものすごい力で抱き締めた。照れ隠しなんだろうか、と少し冷静に考えてたりもしたが、次の言葉でそういうのは全部吹っ飛ぶことになった。
「ずっと、なまえはオレの視界に映ってやがれ」



効果はバツグンだ
(真っ赤になって抱き合う私たちと)
(歓声に包まれた店内)



――――――
企画参加、ありがとうございました!
「ギアッチョのデレをください」とのことで、私の中の最大のデレデレしいギアッチョを連れて来てみましたが、いかがでしょうか?掛け合いが楽しすぎてずっと書いていたかったです。もし、気に食わないところ等がございましたら何なりとお申し付けください!
長編を楽しみにしていただいているなんて、本当に嬉しいです!その一言こそが、私の原動力です。ありがとうございます。
それでは企画参加、本当にありがとうございました!また機会があれば、ご参加ください!

121124 トレオ




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