1000hit企画 | ナノ

▼ あなたが好きです

(あわわわわわ、どうしよう!)
ちらりと時計を見て、彼是一時間以上経っていることに気が付く。そのまま視線をスライドさせて、ソファーに座って書類を見ているリゾットを見る。私がこの部屋に入ってきてから、彼はほとんど動いていないような気がする。というより、どうして私はここにいるのかと言えば、その、単刀直入に言うと、リーダーに告白しに来たわけでありまして。何度も告白の言葉を頭の中で反芻しながらずっと座って居るのだけれど、中々勇気が出ずに、今に至っている。途中何度か呼びかけられたのだけれど、その度にチキンな私の口からは、今日はいい天気ですね、書類大変そうですね、とか当たり障りがなさ過ぎて最早不審な言葉しか出てこなかった。
「……なまえ」
「え、あ、はい!」
「さっきから様子がおかしいが何かあったのか?」
また来た、今度こそは!とリゾットの顔を見るけど、その闇色の目を見つめてしまえば一気に勇気は裸足で逃げ出してしまう。顔を真っ赤にしながら、ななななんでもないです!と答えてバッと顔を逸らしてしまった。ああもう、意気地なし!次、次話しかけられたら言う!と頭の中で再び告白の言葉を繰り返す。しかし、書類整理にまた戻っただろうと思っていたリゾットは、いつの間にか真横に立っていた。
「リリリリーダー!?」
「……やはり変だぞ。顔も赤いし……」
じーっと私の顔を見つめながら見下ろしてくる。その距離に体中が心臓のように脈打つのが分かった。固まってリゾットから目を離せないでいると、ハッと何かに気付いたように彼は目を見開いた。やばい、もしかしてばれてしまったのだろうか。けどこんなに赤くなっていたらばれたっておかしくはない。それでも目が逸らせずにいるとリゾットは徐に手を伸ばしてきた。ビクッと体を竦めさせると、額にひやりとした感触がした。
「熱があるんじゃあないか?」
「……え?」
あ、だめだこの人、典型的な鈍感なお方なんですね。そうなんですね。妙に体中から力が抜けるのが分かった。ホッとしたような、残念なような。悶々と考えていると、体がふわりと宙に浮くような感覚がした。え、と思っていると視界が妙に高いし、何よりとんでもなく近い場所にリゾットの顔が見えた。
「え、えぇ!?」
「暴れるな、ベッドまで運んでやる」
考え込んで黙ってしまった私は、もしかしたらぐったりしたように見えてしまったのかもしれない。気遣っての行動なのだろうが、今は何よりこれが体と言うか、心臓に悪い。これじゃあ早鐘を打っている心音もばれてしまうかもしれない。それこそ気付かれるんじゃないだろうか。
「脈も心なしか速い気がするな…、もっと早く気付いてやれなくてすまなかった」
「ええっと……」
見当違いなことをいいだすリゾットに、もしかするとこの人は超どスレートの直球勝負をしなければ、告白したって気づかないじゃないだろうかと思えてくる。申し訳なさそうなその表情に、体調が悪いわけじゃないと伝えたいとは思うのだけれど、それを言ってしまえば、では何故そんなに顔が赤いのか、と聞かれてしまうだろう。それを考えると、やっぱりチキンの私は中々口が開けない。…でも、それじゃあいけないのだろう。今回のこの告白だって、ホルマジオやプロシュートに背中を押されたからの行動であって、私から決意したものじゃない。そろそろ、自分で決意したっていいんじゃないだろうか。
「あの、」
「ん?どうした?」
「えっと、体調が悪いんじゃないん、です」
「ならば何故、顔が赤いんだ?」
きょとんとした顔でこちらを見つめるリゾットに、今度こそ全身が熱くなる。今言わなくて、いつ言うんだ自分。裸足で逃げ出した勇気をなんとか連れ戻して、靴を履かせる。落ち着け、落ち着け。震える喉を息を吸って何とか抑えながら、口を開く。
「リーダー、あの、」
「なんだ」
「その、私、リーダーのことが「ただいまー!」
今世紀最大の私の決意に水を差したのは、玄関を開けて飛び込んできたメローネだった。嘘でしょ。真っ赤になってお姫様抱っこされたままの私と、そのまま固まっているリゾット。その光景を見て何かを察したらしいメローネがたらりと冷や汗を流す。
「あ、はは、なんかおれ、すっげー悪いことした?」
「メローネェ……!」
ぷるぷると震えて目に涙すら浮かべながらメローネを睨みつければ、ごめんよなまえ!と言って自室に飛び込んでしまった。逃げ出してしまったメローネにどうしようもない怒りを覚えながらも、妙に冷静に、あの察しの良さが少しでもリゾットにあればな、と思っている。はあ、とため息をついてリゾットを見れば、何が起こったのかわからないと言ったふうな顔で立ち尽くしていた。
「リーダー、もう大丈夫なので、降ろしていただけるとありがたいです」
「あ、あぁ、すまない」
「いえ、こちらこそ気遣っていただいてありがとうございます」
そっと床に足をつけながら、絶好の告白のタイミングを逃したことが今更ながら悔しく思えてきた。けれど、あそこまで言ったのならもしかしたら気付かれてはいないだろうか、と思いながらリゾットを見上げればじーっとこちらを見つめるリゾットがいた。
「っ、どうかしましたか?」
「いや……、さっきの言葉の続きが気になるのだが」
そういってこちらを見るリゾットは、変なところもなくいつも通りで。あそこまで言ったのに気付かないものなのか、と逆に感心してしまった。どれだけ鈍感なのだろうか。しかし、あの先を誤魔化すための言葉が出てくるほど冷静ではなくて、どんどん緊張してくる。
「えっとその、」
ただ私の目を見つめるリゾットに耐え切れなくなって少し俯く。けれど逃げることはできなくて、これはもうやはり言うしかないのだろう。手も汗ばんできて、緊張がひどくなってくる。さっきまで馬鹿みたいに繰り返していた告白の言葉もすっかり頭から飛んでしまってどうしていいのかわからなくなってしまった。それでも、伝えなきゃ。ちろりと見上げれば、辛抱強く私の言葉を待つリゾットがいる。仕方がない、と最早クラウチングスタートの体勢を取って逃げる気満々の勇気をひどく頼りない紐で縛って捕まえる。メローネがこちらを覗いているのが見えたけど、私はもう、逃げはしない。息を大きく吸って、しっかりとリゾットの顔を見つめると、ずっと心にしまっていた言葉をやっと吐き出した。



あなたが好きです
(驚くリーダーの顔)
(それさえも愛しく感じます)


―――――――
企画参加、ありがとうございました!
「上司と部下の関係で、鈍感リーダーに思いを伝えるべく奮闘するお話」と言うことで書かせていただきました。俺得すぎるリクエストにどうしたものかとハアハアしてしまいました。けれど上司と部下、というのが上手く生かし切れていない気がします……。気に入らない部分等がございましたら、遠慮なくお申し付けください。
それでは企画参加、本当にありがとうございました!また機会があれば、是非ご参加ください!


121123 トレオ




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