1000hit企画 | ナノ

▼ そんな馬鹿な!

「デートがしたい」
昨日学校帰りに小さく呟いた言葉。その時は何も答えてくれなかったけど別れ際に、明日朝八時に迎えに行く、とキスをくれた。というわけで今日は、承太郎と初デートです。クローゼットを漁って、一番お気に入りのふわりとしたスカートとブラウスを引っ張り出す。これが今一番できる可愛い恰好、のはず。
鏡の前で最終確認とばかりに睨めっこしていると、階段下からお母さんの楽しそうな声が聞こえる。慌てて降りていくと、何よあんた、デートだったのね、とニヤニヤする母の顔。けれどそんなことを今は気にしている暇はない。これまたお気に入りのジャケットとブーツを引っ張り出してお母さんに、変じゃない?と聞けば、まあまあね、と言われた。良いのか悪いのかはっきりしない。しかし今更なので、取り敢えずバッグを引っ掴んで行ってきます、と家を飛び出した。外に出れば、いつもの学ランではなく、ラフな格好をしている承太郎が目に飛び込んできた。
「お待たせっ」
「おう」
こちらに目を遣った承太郎は少しだけ笑い、手を差し出してきた。行くぜ、と言われて慌ててその手に自分の手を重ねれば、優しく手を包み込まれる。その手は冷たくて、まだ温かい自分の手で少しでも暖かくなればと、手に力を込めてみる。
「その格好、似合ってるぜ」
楽しそうにそう笑った承太郎に、釘付けになる。どうしよう、どうしよう。
「あ、ありがとう!その、承太郎も、似合ってる、よ!」
「さんきゅ」
嬉しくて恥ずかしくて、勢いだけで口にしたその言葉をふわりと受け止めてくれる承太郎にくらりと目が回りそうになる。本当に同い年なのだろうかと思うほどの彼の余裕は、心臓に悪すぎる。ふわふわとした頭で、ただ承太郎の後をついていくと駅が見えてきた。
「駅?電車に乗るの?」
「ああ。」
いつの間にか券売機の目の前まで来ていて、慌てて財布を取り出していれば目の前にずい、と切符が差し出された。
「え?」
「切符代はおれが出すぜ。電車に乗ることは言ってなかったからな」
「け、けど……」
「黙って奢られてやがれ」
にやり、と笑って再び手を引いて歩き出す承太郎に、半ば引っ張られる形でついていく。ちょいとお兄さん、コンパスの幅が違うんだよ。ホームに着いた時には、すでに私は息切れしていて、承太郎が笑っていたからきっとわざとだったんだと思う。腹を殴ってやれば、どうしてか私の手の方がダメージを受けているようだ。それが妙におかしくて、ぷはっ、と吹き出せば柔らかく笑った承太郎が頬を優しく撫ぜた。
「漸く笑いやがったな。緊張なんざしてんじゃねーよ」
今までの行動が、彼なりの気遣いであったことようやく気付く。そういえば、口数が少なくなっていたかもしれない。それに気が付いてくれたことも、その気遣いも、とても嬉しくて握る掌に力を込める。どうか言葉だけでは伝わらなかった分が、伝わりますように。
「……次のやつに乗るぜ」
見上げた承太郎の耳がさっきよりも少し赤くなっていたから、きっと伝わったんだと思う。



礼を言いながら隣を歩く承太郎を見上げれば、楽しそうに笑ってくれていた。それが嬉しくて、先程承太郎が買ってくれたマフラーに顔を埋める。そうすれば手に少しだけ力が込められた。
「マフラーも、ありがとう」
「ああ、気に入ったみたいで何よりだ」
彼が巻いてくれたマフラーは、心まで暖かくしてくれた。駅への道を進んでいく途中、ふと、視界に可愛い雑貨店が映った。外から見える商品の雰囲気は私の好きそうなものばかりだ。気になるのか、と聞くが早いか承太郎は、私の返事を聞かずにその店へと足を進める。からん、と軽快なベルの音を立ててドアを開けば、いらっしゃいませ、と言う女性店員の目は承太郎に釘付けだった。それが少しばかり悔しい。ぐい、と腕を引かれて、振り向けば私を見つめる承太郎と目が合う。我に返って、先程店外から見えた指輪のコーナーへと進む。そこには予想通り、私好みのデザインのものが並んでいた。目を輝かせながら色々手に取っていく。結局、選んだのはシンプルなデザインのリングだった。それだけは承太郎のサイズもあった。
「これ、かな」
「これか」
「あ、返して!」
そういって承太郎の手から奪おうとすれば、ひょい、と届かない位置まで手を上げられてしまった。流石に、買ってもらい過ぎだと思う。必死で奪おうとしても、何食わぬ顔で承太郎は歩き出す。
「初デートで、恋人にプレゼントするのがダメだというのか?」
「そういうわけじゃ……」
「じゃあ黙って受け取っておけ」
今日どこかで聞いたようなセリフだと思いながら、それなら、と承太郎のお腹に抱きついた。さすがに驚いたようで、承太郎は動きを止める。
「承太郎の指輪くらい私に買わせて?私だって恋人に、プレゼントしたいの」
じっと目を見つめながらそう言い切る。承太郎が溜め息を吐いて仕方ねぇな、と言って大きい方の指輪を渡してくれた。礼を言えばぷいっと早々に会計に行ってしまった。私もそれに続いて並ぶ。店を出ると、承太郎が手を差し出した。その手に右手を重ねて歩き出そうとすれば、違うと首を振られてしまった。指輪、つけてやる。そういってポケットから指輪を取り出すと、私の右手の薬指にそれを通した。また顔に熱が集まるのがわかる。恥ずかしくて固まっていると、今度は左手に口付けられた。
「こっちはいつかもっといいのをつけてやるぜ」
「っ!」
笑う承太郎の視線から逃げるように、私も承太郎の右手を取って指輪をはめていく。根本まではめ込んだところで、ふと急に愛しさが込み上げてきた。その勢いに押されるまま、承太郎にはめた指輪に口付けると、上から息を飲む音が聞こえた。
「承太郎、大好き。ありがとう」
「、おれも好きだ」
滅多にない愛の言葉と一緒に、ぎゅっとそのまま抱き締められる。今までの人生で一番、幸せな気がした。
けれど、自分たちの町の駅に降りたとき、その気持ちは一気に萎えんでいった。ざーざーと音を立てて空から降り注ぐ雨のせいだ。はぁ、とため息を吐けば承太郎が、おれの家の方が近いから行こう、と提案してくれた。雨の中を二人で走って承太郎の家に向かう。着いた時には、雨脚は強くなっていた。タオル取ってくる、と言って奥に引っ込んでいった承太郎を待ちながら、初めて訪ねる家の大きさに驚いていた。外の雨音を聞いていると、承太郎が戻ってきた。
「ありがと、きゃっ!?」
タオルを肩にかけてくれたと思ったら、そのまま強く抱き締められてしまった。どうしたのか、と承太郎の背中を叩いて、離れるように声を掛ける。
「自分の格好、わかってるのか」
「え?」
「スカートは短いし、ブラウスは濡れて透けてやがる」
もそり、と承太郎の手が動いて腰をグッと引き寄せられる。そのまま抱き上げられて、ブーツを乱雑に脱がされてしまった。驚いて固まっていると、妙に熱を孕んだ目と、目があってしまった。
「悪ィが、今日は帰せそうにねェ」
そういって唇を塞がれる。承太郎越しに見えたリビングへの扉に張り紙がしてあることに気が付いた。



そんな馬鹿な!
今日は、お友達の家に泊まりに行ってくるわ。ごめんなさいね、承太郎
by ホリィ



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企画参加、ありがとうございました!さらには、お祝いの言葉まで頂き恐縮の至り……!こんなサイトで良ければ、どんどんお邪魔しちゃってください。
「空条さんの一生分の砂糖レベルの甘々話」と言うことで、なんて美味しい話なんだろう!とニヤニヤしながら書かせて頂きましたが、どうでしょうか?もし何かございましたら、何なりとお申し付けください。
それと裏がOKならば是非裏で、というリクエストだったのですが、いつか書かせていただくかもしれません。それでは、企画参加、本当にありがとうございました!また機会があれば、是非ご参加ください!
121120 トレオ
▼130504 加筆修正


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