2013 | ナノ
ベッドが揺れるような感じがして、意識が浮上してきた。それでも目を開くのが億劫で閉じたままでいると、頬に湿った感触がした。そのまま離れたそれは、ぺたぺたと足音を立ててドアの向こう側へと消えて行ってしまった。そこでぱちりと目を開く。そういえばリゾットの家に泊まりに来ていたのを思い出した。凝り固まった体をどうにかしようと寝返りを打てば、腰に鈍い痛みが走る。昨夜は久しぶりだったせいか、随分と執拗に攻められて暫らく離してくれなかった。そしてリゾットがやたらと甘い言葉を吐いていたのを思い出して、ひとりでに頬が熱くなる。それを覚ますようにぱたぱたと手で仰ぎながら、起き上がろうとして素肌が剥き出しになっていることに気が付いた。下着類は昨日リゾットが脱がした傍からぽいぽいとベッド下に捨てていたのを思い出して、手だけを出してベッド下を漁る。寒いのでシーツを体に巻きつけつつ探していると指先に布が触れたので引っ張り上げると、リゾットが来ていたワイシャツだった。他に布に触れなかった辺り、下着は遠くへ放られている可能性が高いので、そのシャツで妥協することにした。ベッドの上に座ってもそもそとそれをきて、真ん中あたりの二つだけボタンを留める。
「なんだ、起きていたのか」
聞こえた声にハッとして横を見ると、いつのまに戻って来たのか、リゾットが立っていた。上半身が裸である辺り、もしかしたらこれを着るために戻ってきたのかもしれない。けれど脱ぐのも面倒だから、借りるね、と言えば思いの外あっさりと了承された。礼を言いつつせめてパンツだけでもはかないと流石に心許ないな、とベッドの周りに視線を移す。けれど全く見当たらないそれに首を傾げた。
「もしかしてこれを探しているのか」
そう言ってリゾットがひょいと掲げた指先に、私のパンツが引っかかっていた。真顔でそれをやってのける男に、羞恥で顔に火が付いたように熱くなる。
「ちょ、やめて!ちょうだいそれ!」
半ば叫ぶようにそう言えば、くつくつと笑いながらそれを寄越してくれた。シーツの中に潜って隠れるようにして穿いていると、器用なものだな、と声を掛けられた。
「リゾットが出て行ってくれたらここから出て穿けるんだけどね」
「今更だろう」
そう言ってまた楽しげに喉を鳴らすリゾットはもうこの際気にしないことにした。なんとか両足を通していると、ぎしりとベッドが揺れるのが分かった。そしてシーツ越しの耳元でぼそりと呟く声が聞こえる。
「それ、気持ち悪くないのか?」
「何が」
「濡れているだろう?」
「……穿かないよりはましだもん」
確かにその通りなのだけれど、これを穿かなければここから出ることさえ躊躇われるのだから仕方ないだろう。なんとか穿き終えて、シーツを逆にリゾットに被せながら起き上がると、もそもそとシーツを退けながらリゾットが愉快そうに声を上げた。
「なかなかいい眺めだな」
「変態」
もうリゾットの言葉は気にしないことにして、立ち上がる。足は素肌が晒されているわけで、すーす―してなんだか落ち着かなかった。ちらりと目を遣って、愕然とする。太腿付近に大量の赤い点々が散らばっていた。後ろから本当に楽しげな声が聞こえてきて、先程言っていた彼の言葉がどういう意味かを理解した。
「リゾットのばか」
「なんとでも」
いつの間にか背後に立っていたリゾットにぐい、と引き寄せられて抱き締められる。体の前に回った腕に手を添えながら頬を膨らませて上を見上げると、弧を描いた唇が額に落ちた。
「顔を洗ってくるといい」
「言われなくても。あ、カプチーノが飲みたい」
「仕方ないな」
先程のいやらしい笑みとは打って変わって穏やかに微笑むリゾットに、私も同じように返す。そろりと顎に添えられた手が私の首を更に仰け反らせて、そのまま今度は唇にキスが降ってきた。苦しい体勢に思わず笑うと、短いようで長いようなキスが終わって顔が離れた。目を合わせてもう一度微笑みを交わすと、腕を解いてそれぞれ目的の場所へと移動する。後ろからついて来ていたリゾットが私の恰好に楽しげに目を細めていたのは、見て見ぬ振りをした。
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