2013 | ナノ
今日やるべき仕事が終わってひといきつこうとデスクを立ったとき、携帯から個別設定している音楽が鳴り響いた。昨晩も聞いたその曲に、今日は早いな、と思いながら通話ボタンを押す。
「もしもし?」
「オレだ、急に悪いな。仕事中だったか?」
「ううん、ちょうど終わったところだよ」
ナイスタイミング、と茶化すように言えば低い心地よい笑い声が空気を震わせた。それに心を弾ませつつ、要件を尋ねた。
「特に用事はないんだが……、今からそっち行ってもいいか?」
「いいよ。晩ご飯、作って待ってるね」
「ああ、グラッツェ。楽しみだ」
それじゃ、と言って切られた電話に、仕事疲れで重くなっていたはずの身体がいつの間にか軽くなっていた。今からリゾットと会えるというだけでこれだけ癒されるのなら、毎晩している電話も無駄なことじゃないのかもしれない。そう考えながらも、夕飯のメニューを頭の中で練っていた。



「ごちそうさま」
「お粗末様です」
いつの間にか私の真似をして食前食後の挨拶をするようになったリゾットに、少し笑いながら言葉を返す。すっかり空になっている食器を運ぼうと手を伸ばせば、それを交わすようにしてリゾットが皿を持ちあげた。疑問符を浮かべて見上げる私に笑いかけると、そのままキッチンへと歩き出した。それに慌てて続くようにして追いかける。いつもはこんなことしないのに、一体どういう風の吹き回しだろうか。そういえば、来た時から少し様子がおかしかった気がしないでもない。
「どうかしたの?」
「ん?あぁ、食器くらいオレでも運べるからな」
そうじゃなくてその前の行動も含めてだと言おうとしたが、シンクに皿を置いた音にその思考は掻き消されてしまった。ソファーで待ってる、と言い残したリゾットはすれ違い様に私の頭を二度軽くぽんぽんと撫でてから出て行ってしまった。絶対に何かおかしい。なんだか、妙に雰囲気が柔らかい気がする。消化しきれない違和感を抱えつつ、取り敢えず皿を片付けてしまうことにした。


洗い物を終えてソファーに向かえば、リゾットがのそりと体を起こした。それから端の方を軽く叩いて、そこへ座る様に促す。それに従ってそこへ腰を下ろせば、無遠慮に太腿へと頭が降ってきた。それに驚いて固まっていると、優しく目を細めたリゾットが頬に手を伸ばしてくる。ようやく働き始めた頭でゆるゆると親指で頬を撫で続けるその手を掴んで問いかける。
「何かあったの?今日、なんだかいつもと違うよ」
「そう見えるか?」
「うん、なんか、なんだろう……。いつもより優しい、のかな」
そう言って頬を撫でていた手から離すと、柔らかい銀髪へと移動させる。ふわふわとして触り心地のいいそれを撫でていると、気持ちよさそうに目を閉じてぽつぽつと話し始めた。
「今日、言われたんだ」
「何を?」
「そんなに冷たいと嫌われるぜ、って」
「……誰がそんなこと言ったの」
プロシュートやホルマジオあたりだろうか。余計なことを言うものだな、と思いながらもそれを素直に聞いて行動に移してくれたリゾットに愛しさが募る。髪を撫でていた手をするすると移動させて高く整った鼻をむぎゅっと摘まんだ。
「……痛いんだが」
「ばか」
眉を顰めて睨んでくるのを微笑んで返す。それにさらに訝しげに眉を潜める姿に笑いを堪えながら言葉を続ける。
「冷たいなんて思ったことなんてないよ。いつもリゾットは優しいし、いつものリゾットだって大好きだよ」
そっと指を離せば、鼻が赤くなってしまっていた。ちょっと強くしすぎたかな、なんて思っていると膝から重量感が消えて、代わりに背中と前側に圧力がかかった。どうやら、抱き締められているらしい。嬉しそうに私の名前を呼ぶリゾットにまた笑いながら、その広くて優しい背中に腕を回す。さらに強くなって埋められていく隙間に息苦しさと同時に、吐き出しきれないほどの愛しさを胸に感じた。
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