title | ナノ
「ああああ!また負けたあああ!」
名前は叫びながらクッションに頭を突っ込んだ。そんな彼女の奇行を見ながら呆れたように花京院は笑った。
「だから、名前じゃ僕に勝てっこないって」
「うー……、このゲーマーがぁ」
「褒め言葉だよ」
忌々しげに睨む名前の視線を受けつつ、花京院は飄々と答える。ぼすん、とコントローラーを絨毯に置いて名前はベッドに倒れ込んだ。ちょっとそれ僕のベッド、と花京院が非難の声を上げるが、当の本人は聞いちゃいない。
「なんでどのゲームもやり込んでのさ……」
「まあ、好きだからね」
「やーいオタクオタク」
「うるさい」
幼稚な悪態を吐く名前を一発叩いて隣に寝転がる。……こんなことをしているけど、別に付き合っているわけじゃあない。けど、そうなりたくないわけじゃあない。
「今のとこ何勝何敗?」
「ぼくが9勝0敗、名前が0勝9敗」
「うっわ厭味ったらしい言い方。てかあと一回じゃん!」
うげぇー、と名前が舌を出して嫌そうな顔をする。そんなこと言ったって、
「名前が言い出したんじゃないか。先に10勝した方の命令を聞くって」
「そうですけどねー……」
溜め息を吐く名前を見て花京院も溜め息を吐く。のそりと立ち上がってゲームを収納している棚に近づく。次はどれで勝負するの、と聞けば、典明がやり込んでないやつ、と返ってくる。この家にそんなものはありません。仕方がない、とそれでもまあまあしかできない格ゲーを用意してやる。ハンデで一番弱いキャラを選択して、名前に一番スペックのいいキャラを使わせた。それなのに。
「典明、卑怯……」
「いや、名前弱すぎでしょ」
圧倒的な体力差を残して、花京院のキャラの勝利。うぐぐ、と横で呻いている名前の頭にそっと触れて撫でてやる。さらさらと通りのいい髪の毛を梳きながら顔を上げるように促す。余程悔しかったのか微妙に潤んだ瞳で見上げるものだから、花京院は思わず手を引っ込めた。
「……悔しいが私の圧倒的敗北!命令をひとつ受けて立とうじゃあないか!」
勇ましく声を上げる名前には悪いが、今のぼくはその悪ノリに乗れるような気分じゃない。先程見た扇情的な顔を思い出して顔が熱くなった。そのぼくの赤い顔を見て、名前もようやく今の状況に気づいてくれたようだ。名前は何とも思ってないかもしれないが、花京院からしてみれば、気になる子と二人きりの自室。据え膳食わぬはなんとやらとは、今まさにこのことなんじゃあないだろうか。
「名前、」
「ご、ごめん典明!ちょっと用事思い出した!」
真っ赤になりながら慌てて荷物を引っ掴んで立ち上がった名前は、扉のほうに足早に向かう。そしてノブに手をかけて回そうとした所を、花京院が腕を後ろから引っ張って阻止する。そのままの勢いで、ギュッと腕の中に名前を囲い込んだ。
「誰が帰っていいと言った?」
耳元で囁くように言えば、名前は首まで真っ赤になって抵抗をやめた。これは、脈アリかもしれない。



誰が帰っていいと言った?と腕を掴まれ阻止される

(命令っていうか、告白だね)
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