2012 | ナノ
意気揚々とチャイムを鳴らす。はーい、と言う朗らかな女性の声の後に玄関が開かれた。
「あら、名前ちゃん!」
「こんにちは、お久しぶりですホリィさん」
つまらないものですが、と持って来ていた手土産を渡せば構わないのに、とホリィさんはありがとうと受け取って私を家の中に招いてくれた。お邪魔します、と入れば、承太郎は部屋にいるわよ、と告げて彼女はキッチンへ入って行ってしまった。最初にこの家に来たときは、初めての息子の恋人よ!とホリィさんはずっとついて回っていたのだが、今ではすっかり慣れたもので私が来たら承太郎の場所を教えて、どうぞ二人で好きになさいとばかりにしてくれる。
教えてくれた通りに承太郎の部屋へ向かえば、障子を開けて出てきた承太郎とぶつかってしまった。
「わっ、」
「おっと……、大丈夫か?」
「うん、あ、ありがと」
ぐいっと抱き寄せられるように支えられて、近すぎるその距離に照れてしまう。それに気が付いた承太郎がふ、と笑いながら体を離して、手を引いて部屋の中に招き入れてくれる。暖房が利いているその部屋は暖かくて、着けていたマフラーとかを除けていく。
「悪ィな、玄関前で出迎える予定だったんだがな」
「ううん、いいよ。ホリィさんが出てくれたし」
そう言って笑えば、少し苦い顔をしてから少しだけ笑ってくれた。きっと最初のころを思い出したんだろう。うっとおしいぜ、といいながらホリィさんを追い払っていた承太郎を思い出す。手渡されたハンガーにコートを掛けて、それを言われた場所につると、承太郎の横に座った。
「それにしても、まさかクリスマスに承太郎と過ごせるとは思わなかった!」
「どっかに連れてってやることはできねぇけどな」
「承太郎と一緒に居れるだけで十分すぎるよ」
だって承太郎、街中歩くだけであちこちから黄色い声があがるものね。あんな好意の塊みたいな声をやかましいの一言で一蹴しちゃう承太郎くんって怖い。前にそう言ったら、名前以外になんか言われても嬉しくもなんともねェ、と言われてしまい、赤面して固まったのもいい思い出だ。
「あ、これプレゼント!」
がさがさと鞄を漁って、大きな袋を差し出す。開けていいか、と聞かれてどうぞ、と答えた時にはすでに半分くらい開いていた。聞かなくていいじゃない。
「……鞄か」
「うん。承太郎すぐ喧嘩でぼろぼろにしちゃうから」
まあ、荷物入れてないからあってもなくても一緒だろうけど。
ありがとな、と頭を撫でてくれる承太郎にすり寄りながら、どういたしまして、と答える。きっと承太郎のことだ、私からのプレゼントだからって、大切に使ってくれるんだ。これで余計なものが喧嘩の度に壊れなくて済む。
「入るわよぉ」
「あ、はい!」
突然聞こえたホリィさんの声に、慌てて少し承太郎と距離を取る。承太郎は小さく舌打ちをしてから帽子の鍔を下げた。それに少し微笑んでからホリィさんは私の持ってきたお饅頭とお茶を置く。お礼を言ってホリィさんが立ち上がるのを見上げる。それから少し困ったような顔をした。
「さっきね、天気予報で雪がひどくなるっていっていたのよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ。私は今から泊まりに出かけるんだけれど、もし雪が強くて帰れそうになかったら泊まって行っても構わないからね」
「はい、ありがとうござ、……えぇぇ!?」
好きにお風呂とか使って頂戴ね、と柔らかく微笑んだホリィさんはごゆっくり、と言って早々に部屋を出て行ってしまった。それを見送ってから十分な間を開けて、私の頭はようやく働き始めた。だめだ!泊まるなんてなったら、心臓が持たないよ!
「じょじょじょ承太郎!私雪がひどくならないうちに帰るね!」
「だめだ」
「……へ?」
何かを思いついたかのように承太郎はにやりと笑うと、私の腰を引き寄せた。
「おふくろもいねェしな」
「じょ、承太郎?」
「泊まってけ。嫌、とは言わせねぇぜ」
更に笑みを深くして、承太郎が綺麗な顔を近づけてくる。前からかかる力と、重力に従って私の体は畳の上に横にされる。ああ、神様。どういうことですか、これは。目を閉じる最後に見た承太郎は、今までで一番厭らしい顔をしていた。


メリークリスマス!

クリスマスプレゼントは承太郎からの全身全霊の愛


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