2012 | ナノ
イルミネーションで彩られた道を、一人ビニール袋を提げて歩く。顔を上げて周りを見ればどこもかしこもカップルばかりで、どうにも居心地が悪い。ぷらぷらと所在なさげに揺れるビニール袋の中に入っているのは、私の大好きなジェラートとリゾットの大好きなウイスキーだ。今日はリゾットは仕事が入っていて会えないらしく、それがわかっていたのにウイスキーに手が伸びてしまった。ウイスキー、私は飲めないのにな。
これ以上煌びやかな街中を見るのは辛くてふらふらと路地裏に入れば、いつも通りの薄気味悪い暗さが広がっている。あまり長居はしたくなくて足早に路地を抜けていく。
「ちょっとシニョリータ、こんな道一人で歩くと危ないよ」
「急いでいるので」
声を掛けてきた男を一言で一蹴して、ずんずんと進んでいく。後ろから舌打ちが聞こえたもののついてきてはいないようだ。いくら一般人には負けないとは言っても、こんな日に血を見たくはない。いつの間にか目の前には家へと続くT字路まで来ていて、右に曲がれば家があるが、大通りを通らなければならない。まだひとりで居たいのにな、と思ってそのT字路を左に曲がった。確かこちらに行けば港に出たはずだ。そこで寒い風に吹かれながらジェラートを食べて凍えてやろうか。
そんなふうに考えて少しだけ笑みを浮かべながらビニール袋を左手に持ち替えると、右手を誰かに掴まれてしまった。
「どこへ行く」
「、リゾット!?」
さっきの奴が追ってきていたのかと身構えたが、次いで聞こえた声に体の緊張が解れていく。落ち着いて見上げれば、その人は確かにリゾットで、でもどうしてここに、と頭が軽く混乱する。
「え、お仕事は?」
「頑張って終わらせた」
「けど、疲れてるんじゃ」
「名前に会えば疲れなんて吹き飛ぶさ」
妙に上機嫌で、イタリア男らしい口説き文句を吐くリゾットに首を傾げる。嫌じゃないけど、なんだか慣れなくてくすぐったい。そろりと手首を掴んでいた手が解かれて、指を絡め取る。そのまま抱き寄せられて腕の中に閉じ込められた。
「で、どこへ行こうとしていた。何か用事でもあるのか?」
「ううん、ちょっと海でも見に行こうかと思っただけ」
「こんなに寒いのにか?」
「ちょっとね。けどリゾットがいるなら家に帰りたいな」
そう言って笑えば、リゾットも少し笑ってくれた。するりと腕が解かれて掌を重ねて指を絡めあう。いつの間にかビニール袋はリゾットが持っていて、私は手ぶら状態だった。今度は何も持っていない左手を所在なく揺らしてみる。右手は暖かくて、それに何だか心まで温かくなった。
「お前の家の前で待っていたんだがな」
「え、そうなの?ごめんね」
「いや、いい。迎えにきて正解だった」
危うく長い時間待ち惚けを食らうところだったと笑うリゾットは、それでもすぐに私の場所を探しだしたに違いない。それが愛しくて嬉しくて、ぎゅっとリゾットの左腕に抱きついた。当たっているぞ、と言われて変態、と返せば可笑しそうに笑われた。
「今日は上機嫌だね、どうしたの?」
「当然だ。クリスマスの夜に恋人と過ごして嬉しくないわけがない」
そう言って立ち止まったリゾットにつられて立ち止まる。暗い路地裏で、柔らかい月の光が私たちを照らしてくれていた。本来イタリアは家族と過ごすのが普通なのだが、私にもリゾットにも家族はいなくて、一人で仕事をこなすのが例年だった。それが今年は、今夜は、こんなにも愛しい人が傍にいるのだ。リゾットも、そう思ってくれていたことが堪らなく幸せだった。
「お前がいてくれて、本当に良かった」
そう言ってぐいっと私を引っ張ると先程とは比べ物にならないくらいの強い抱擁をくれた。愛が、溢れてやまない気がした。


メリークリスマス!

クリスマスプレゼントはリゾットからの強い抱擁


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