2012 | ナノ
ころりころりと寝返りを打って起きるのをためらい続けること小一時間。新年早々何やってんだろうと虚しくなって枕に顔を埋める。皆は家族や恋人と年を越すとかで、私の携帯は一切ならない仕様になっております。はい。本当なら私だって恋人と過ごす予定だったのだけれど、何しろ彼はイタリアに在住である。日本にいる私が彼と会えるのなんて本当に一年の内、片手で数えられるくらいなんじゃないだろうか。
「リゾットー……」
返事のない呼びかけをして、虚しくなってもう一度寝返りをうつ。暫らくぼけーっとしていたが、そろそろお参りに一人寂しく向かおうかと体を起こした。けれどその動きも、けたたましく鳴り響いた枕元の携帯によって遮られてしまった。何よもう、と一瞬思ったが、そのメロディが一人だけ特別に設定しているものだったから瞬時にベッドの上に戻って携帯を耳にあてた。
「も、もしもし……?」
『チャオ、名前か?』
「リゾット?」
『ああ、突然すまないな』
本当に。あまりに急展開すぎて頭が追い付かない。どうしよう、何か喋らなきゃいけないのに。息が詰まって何も言えない私に、それがわかっているかのように電話越しにリゾットがふ、と笑う。あ、懐かしい。
『名前、感動してくれるのは嬉しいが、少し玄関を開けてくれると助かる』
「……っ、」
何度も頷いてばたばたと玄関に走って行けば、それが見えているかのようにリゾットはまた笑った。勢いよく玄関を開けて外を見れば、そこには何も変わらないいつもの風景。
「『おいおい、オレにぶつける気か?』」
くつくつと笑える声が電話からだけじゃなくてすぐ傍で聞こえたきがして、きょろきょろと辺りを見渡す。それでも見えない姿に焦れていると、ひょいと耳元から携帯が消えて、え、とそちらを見れば携帯が宙に浮かんでいた。呆然としていれば、今度は笑い声と一緒にぐい、と腕を引っ張られて玄関の中に引きずり込まれた。がちゃりとドアが閉まるのを視界の端で確認しながら驚きすぎて何も言えずにいると、じわじわと目の前に人の影が現れ始めた。それを目を見開いて見ていたが、半分ほど現れたところで思わずその人に抱きついた。
「リゾット!」
「泣き虫だな」
腰に抱きついてえぐえぐとしゃくりあげる私を抱きしめて、リゾットが笑う。ことりとシューズケースの上に私の携帯とリゾットの携帯を並べておくと、しっかりと私を両手で抱き締めた。
「会いたかった」
「わた、わたしも……!」
「驚かせて悪かった。だが、とても可愛い泣き顔だ」
まだ治まらないらしい笑いを顔に浮かべながらも、愛しそうに私の涙を親指で拭う。頬に添えられた手に甘えるように擦り寄れば、目を細めて顔を近づけてきた。
「年が明けてから、姿を見せたのはお前が最初だ」
「そうなの?」
「ああ、一番に会いたくてな」
愛してるよと囁きながら口付けられる。気が動転していて気が付かなかったけれど、そういえば何故リゾットはここにいるのだろう。
「ねェリゾット、何しに日本へ来たの?お仕事?」
「暗殺の仕事が日本にあるわけないだろう」
「そっか。え、じゃあ私に会いに来てくれたの?」
「さっきからそう言っている。まあ、少しだけ違うがな」
「え?」
少し悪戯っぽく唇を歪めたリゾットが私を見下ろす。その目線にぞくりとしながら次の言葉を待てば、そろりと顎が捕えられた。
「今年からはお前と長い間一緒に居たいんだ、オレは」
「それは私だって」
「ならば、今からお前を連れてイタリアへ帰る」
「……へ?」
「今日はお前を攫いに来た。一緒にイタリアで暮らすぞ。不便はさせない」
「ちょ、ちょっと、」
「異論も認めない」
そこまで言って、まだ慌てている私を楽しげに見つめると、けど、とかええ、とか何かと紡ぎ出している私の唇をリゾットのそれで塞いだ。また黙り込んだ私をみて長い指が私の輪郭をなぞる。
「一択だが……、返事は?」
にやり、と不敵に笑うリゾットの表情の中に、少し不安そうな色が見えて私の心と頭が解けていく。そんなの、リゾットが無理に一択に絞らなくても私のなかの答えは一択なのに。それを全部伝えたくて、言葉だけじゃ伝わらない気がして、思いっきり彼の唇を私から塞いでやった。

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