2012 | ナノ
※アサヨシ様に捧げます!


今までに何人殺しかなんて考えたこともなかったし、その行為自体に罪悪感や後悔を感じたことさえなかった。けれど、大切に想う人ができた今、それを考えずにはいられなかった。
今回の任務の内容はあまり気分のいいものではなくて、仕事が終わった後味も、やはり心持ちが悪かった。重い身体と心とを引きずって家に帰ると、玄関に灯りが灯っているのが見えた。朝からの任務だったので、確かしっかりと消してきたはずである。ともすればきっと、名前が家に来てくれているのではないだろうか。そう思って頬が緩んだけれど、ふと自分の身体を見下ろして気が付いた。
アジトで服を着替えてきたけれど、大量に血を浴びてしまったせいかまだ匂いが残っているような気がしたのである。幾ら名前が自分の仕事を知っているとはいえ、彼女は一般人であり、一度も仕事の残り香を見せたことはないのだ。気にしていない、と言ってくれたところで、どこかでは嫌われやしないかとか怖がらせたりしないかとか自分が気になって仕方ないのだ。
なのでこの姿を名前に見られたら、と思うと再び気分が沈んでいくのが分かった。名前には会いたい。特に今日は嫌な任務だったからこそ会って癒されたいのだけれど、やっぱりこんな姿は、裏の顔は見られたくない、と自分の中で矛盾した感情がせめぎ合っていた。
けれど足を進めているので着実に家には近づいていた。ついに玄関前に辿り着いてしまい、一度重い溜息を吐くとそっと家の中に足を踏み入れた。だからリビングまで行って、名前がソファーで寝ているのを見た時には心底ほっとしてしまったのだ。愛らしい寝顔を視界に入れて、その顔にキスを降らせたいのを押さえながら風呂へと向かった。



ぼんやりとシャワーを浴びていると、不意にすりガラスの向こうに気配を感じてハッとした。
「リゾット?」
「名前か。どうした、寝ていたんじゃなかったのか?」
「……うん、あの、一緒に入ってもいい?」
思わず耳を疑った。名前はかなりの恥ずかしがり屋で、オレから誘ったって入ってくれないことがほとんどなのだ。あまりにも鬱々と考えすぎて、ついに幻聴まで始まったのかと一瞬思ってしまったほどだった。けれど疑い半分期待半分で、構わない、と返事をすれば、ありがとうと聞こえて、次いでごそごそと脱衣所で音がし始めたものだからもう気が気じゃなくてまともにシャワーさえ浴びることができずに、湯船に湯を張っていた。
ギィ、と扉の開く音がしてそちらに目を向ければ、バスタオルを巻いておずおずと入ってくる名前がいた。その恥じらう姿はいつもどおりで、ホッとしながらそっと名前を抱き寄せる。けれど抱き締めた名前からシャンプーの香りがして首を傾げる。
「風呂、入ったのか?」
「……うん。けどお湯、浸かってなかったから」
寒くって。
そう言ってまだ半分も溜まっていない湯船に身体を沈めた名前は笑った。その笑顔が何とも言えなくて、すでに体を洗い終えていたので自分もその横へ身体を滑り込ませる。背中を向ける名前を後ろからぎゅっと抱きしめて、肩に顎を乗せた。どう声を掛けようか悩んでいると、不意に名前の方から声がかけられた。
「リゾット、」
「なんだ」
「あのね、もっと私のこと頼ってくれたら嬉しいな」
ぽつりと寂しそうに呟くその姿はあまりにも可憐で、消えてしまいそうにさえ思えた。けれど言っている意味がイマイチ分からないというか、どうしてそんなことを急にいいだしたのかが分からなくて少し首を捻る。するとそれが分かっているかのように名前は続けた。
「今日もそうなんだけどね、たまにリゾットは一人で何か抱えてるの。そりゃ頼りないかもしれないけど、リゾットの力になりたいの」
そう付け加えた名前に驚いて今度こそ顔を上げる。気付かれていたのかとかそういうのよりも、そんなふうに思っていてくれたなんて想像もしていなくて、それが嬉しく感じてしまった。けれど流石に裏の話を聞かせるのは怖いので曖昧に頷くことしかできなかった。それに気が付いた名前が振り返って悲しそうに笑って見せた。
「無理にとは言わないよ。ただ、私がリゾットをずっと好きなままでいることだけは保証する」
そう言って首に腕を巻きつけてきた名前を、抱き締めずにはいられなかった。華奢な肩と腕がひどく優しく感じて、そっと首筋に鼻を摺り寄せた。ふふ、と楽しそうに笑い声を漏らした名前がどうしようもなく愛しくて、少しばかり話を聞いて貰おうと、小さく口を開いた。



(話をしたあとにも離れないその腕に)
(涙が出そうなほど心が喜んだ)





9999hitを踏んでくださったアサヨシ様に捧げます。
ちょっと書きたかった風呂ネタを使えて楽しかったです。しかし少しくらい仕上がりになりましたし、気に食わない点がありましたらなんなりとお申し付けください。
それでは、リクエストありがとうございました!


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