2012 | ナノ
夜も深くなり日付が変わろうかという頃、ようやく家に着いた。玄関を抜け、リビングに足を踏み入れればそこは見慣れた我が家だった。
「んぁー、疲れたぁ……」
大きく伸びをしながらソファに足を向ける。少し体を落ち着かせるために座ろうとすれば、そこには先客がいた。まあ、玄関に靴があったから居るとはわかっていたがまさかソファで寝ているとは思わなかった。すやすやと心地良さそうに目蓋を落としている彼の顔は緩みきっている。無防備に横たわる姿に、普段の威圧感溢れる彼はどこに行ったのかと可笑しくなってくる。
「リゾット」
名前を呼びながら頬を撫でれば、ゆるゆると目が開いていった。黒い目に私を映して笑う彼はどこか子供に見えた。
「おかえり、名前」
「ただいま」
ソファに置いていた右手にリゾットの手が重なる。そのままギュッと握られて、彼の口元に運ばれて行った。
「今帰ってきたのか?」
「うん、書類がなかなか片付かなくて」
「そうか……あまり無理はするなよ」
優しく手の甲に口付ながらリゾットは心配そうに顔を歪める。いつも思うがリゾットはとても過保護だ。自分は暗殺なんて言うとてつもない危険な仕事に身を置いているのに、ただのデスクワークをしている私を働きすぎだと眉を寄せるのだ。どう考えたって、心配されるべきなのは彼のほうだろう。
「リゾットこそ、無理はしないでね」
頬にあった手を頭に移して綺麗な銀髪を撫でてやれば、気持ちよさそうに目を細めて、わかっている、と笑った。
しばらくソファの上で戯れながら他愛ない話を繰り返していれば、いつの間にか短針は一時を指していた。
「わ、もうこんな時間だ。リゾット、明日仕事は大丈夫なの?」
「ああ、明日は全部家でできるものばかりだ」
「そうなの?じゃあ明日はゆっくりできるね」
明日は自分も休みだ。久しぶりに二人で過ごせる一日を想像して、顔が綻んでいく。そんな私を見てリゾットは、フッと笑うと手を伸ばして私の体を抱えて立ち上がる。
「本当にお前は可愛いな。寝室に行くぞ」
「……え?」
「お前のあの顔はそそられる」
「ねえ、リゾット、私疲れてるの」
「大丈夫だ、明日ゆっくりできるのだろう?」
「や、やだ、お風呂も入ってない……!」
「じゃあ、先に風呂に入るか」
「もしかして……」
 恐る恐る近い顔を見上げれば、魅惑的な唇を歪ませて笑っていた。
「ふたりで入ればいい」
離れる気はないらしい彼は、寝室に向かっていた足を風呂場に向ける。真っ赤になった顔を彼の鍛えられた胸板に押し付けると、クツクツと笑う振動が直に伝わってきた。とてもじゃないが疲れ切っている私にとって、一晩彼の相手をするのは体力的にきついだろう。けれど、今にもスキップしそうなほどに楽しそうなリゾットを見ていると、今日くらい許してあげようかなんて思えてくる。
「リゾット」
「なんだ?」
「大好き」
そう言って、首に手を絡ませてなんとか口付ける。腹筋が辛かった。暫し呆然としたリゾットは、眉を寄せると小さく舌打ちをして性急に唇を奪うと、走るようにして風呂に向かった。
「今夜は、寝かせてやれそうにない」
煽ったお前が悪いとばかりに再び強引なキスをされた。


(溺愛しすぎているかもしれない)

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -