2012 | ナノ
ぴよぴよぴよぴよ、

聞きなれない音が耳元でなるのが聞こえる。まだ寝ぼけてんのか、オレ。うーん、と唸りながら寝返りを打てば、音は追いかけるように耳元をついてきた。

ぴよぴよぴよぴよ、


「……」

ぴよぴよぴよぴよぴよぴよ、


「……うるせぇぇえええ!」
「あ!やっと起きた!」
「は?」
あまりにうるさくて、どうやら寝ぼけているだけではないらしいことに気が付いて叫びながら飛び起きれば、横から声が聞こえた。間抜けな声を上げながら隣を見れば、そこには名前がいた。
「……なんで居んスか?」
「えぇっと、遊びに来たら仗助のお母さんがあげてくれたの。あ、お母さんお出かけしてくるって言ってたよ」
くっそあのやろ。いくら恋人とはいえ、それはないんじゃあないだろうか。まだ息子が寝ているというのに、部屋に上げる神経が分からん。けども、あの母親ならやりかねない。というか実際やってる。
はあ、とため息を吐きながらベッドから抜け出そうとしたが、まだにこにこ笑いながら名前がこちらを見ている。そしてその手にはぴよぴよと鳴り続けるひよこが握り締められていた。
「なんスかそれ」
「あ、これ?ひよこの目覚まし!可愛いでしょ」
またにこにこと笑いながら手元のそれを見えやすいようにずずい、とこちらに差し出してきた。それを受け取ってまじまじと見れば、お腹のあたりに時計が付いているのが見える。なるほど、どこにでもある目覚まし時計のようだ。けれど問題はそこではない。
「じゃあ、どうしてこれでオレを起こしたのよ?」
「ええっと、もらったばっかりで嬉しかったから?」
いや、オレに聞かれても。というか、
「貰ったって誰に?」
「うんとね、名前忘れちゃったけど、ほら、隣のクラスの全体的に黒い人!」
「いや、誰っスか」
全く見当がつかない。が、こいつが名前を覚えていない女子はいないはずだから、取り敢えず男であることには違いない。それを理解した瞬間、じわじわと黒いものが胸の中に溢れてきた。
「男からもらったっつーわけか」
「うん、なんか知らないけど、私がいつだったか欲しがってったのを覚えてくれてたみたいで」
確かアレ、一年位前だった気がするんだけどなー。
なんて呑気に呟いているのを見て、されに沸々と黒いものが溜まっていく。ようするにそいつは一年以上前から名前のことを狙ってて、今回気を引くためにそれをプレゼントしたと。素直というか、天然な名前のことだから、きっと何も考えずに喜びながら受け取ったのだろう。けれどオレからしてみりゃ、もうそのひよこはむかつくもの以外の何物でもない。
「……むかつく」
「へ?なんてじょうす、ひゃあ!」
ずるりと名前を引っ張ってベッドに押し倒す。その手からひよこを奪い取ると部屋の端へ投げ捨てた。ああひよこちゃん、と間抜けな声を出す口をオレの口で塞いでやる。驚いたようにこちらを見上げる顔に、黒い感情はどこかへ消えて、代わりに別のものが込み上げてきた。
「これからはオレ以外からものもらうんじゃあねーぜ」
ぺろりと間近で舌なめずりをすれば、名前は一瞬で顔を赤く染め上げた。まって、と言おうとする唇をもう一度塞げば、部屋の隅でぴよぴよと鳴く音以外はすべて飲み込まれた。


(贈り主は地獄送り)

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -