抜き出した片足、 | ナノ
「名前はトリッシュの姉だ。暫らく身柄をここで拘束する」
リビングに全員を集めてリゾットがそう報告をしたときの彼らの反応は様々だった。女が増えたと喜ぶメローネ、知らないやつの突然の仲間入りに怒るギアッチョと戸惑うイルーゾォ、兄貴が仲がいいなら、とペッシ、あとはやたらと優しいプロシュートとホルマジオ。そんな彼らの反応に名前は戸惑いながら、立ち尽くしているとギアッチョが怒鳴り始めた。
「なんでなんだよリーダー!殺しちまえばいいじゃあねぇか!」
「もしものとき、トリッシュを従わせる道具になる」
淡々と答えるリゾットに再び恐怖を感じる。感情の籠らない声は、どれくらいの間そうしていれば身につくものなのか。少し震えていたらしく、隣に立ってくれていたホルマジオが頭を撫でる。心配するな、とそういいたいようなその仕草にギアッチョは舌打ちをして更に食い下がる。
「大体本当に姉妹なのかよォ。どう見たってコイツ、アジア系じゃねぇか」
流石にその疑問はあったらしく、リゾットもこちらを振り返る。無言の圧力というか、理由を促すような鋭い視線。名前は少しばかり表情を曇らせて答える。
「……私とトリッシュは義理の姉妹なんです。私の本当の両親は日本人で、両親が死んだとき、トリッシュのマードレが私を引き取ってくださったんです」
「嘘くせェ」
ギアッチョはケッ、とそっぽを向いて白けた顔をした。命が惜しくて嘘ついてんだろ、という彼の言葉に名前はぐっと詰まってしまった。確かに、嘘くさいかもしれない。
「……いや、名前は嘘を吐いてないだろう」
思いの外、助け船を出してくれたのはリゾットだった。近づいてきたリゾットは、先程カミソリを食い込ませた腕を取り上げて、強く傷を押した。思わず痛みで叫びそうになるが、何とか堪えた。
「こいつはなかなか筋の通ったやつだ。先程腕を切り落とそうとしたんだが、一切口を割ろうとはしなかった。トリッシュを想っていなければできないことだろう」
バッと腕を振りほどいてプロシュートの後ろに隠れてみる。ああ、血が滲み出てきた。
「……ッチ、勝手にしやがれ」
リゾットにまで言われて、ギアッチョは足音荒く部屋を出て行く。事の顛末を黙って見ていたイルーゾォも少しだけ不安そうな色を見せたが、結局何も言わずに踵を返して部屋を出て行った。これは先が思いやられる、と名前はこっそり肩を落とす。と、突然メローネが抱きついた。
「腕を切り落とされそうになったっていうのに怯まないなんて!ベネ!いい!すごくイイ!」
「きゃ、あああああああああ」
「ぐぼぁ」
名前が驚いて叫べば、メローネは口から待ち針を吐き出した。理解できず固まる名前をプロシュートがメローネから引き離す。
「てめー、メローネ!抱きついてんじゃねえ!」
ホルマジオがメローネを蹴飛ばせば、部屋の隅まで転がって行って動かなくなってしまった。おどおどと眺めていると、リゾットがホルマジオに何か耳打ちした後、プロシュートとペッシを呼んで部屋を出て行った。隅っこに転がったメローネの安否を心配してい るとホルマジオに呼ばれて、ついていく。そして連れていかれた場所は、
「キッチン……?」
「ああ。名前、料理はできるか?」
「一応、それなりには……」
なるほど、と思う。確かに女手は足りていないように見えたから、きっと家事が十分ではないのだろう。苦笑するホルマジオを見つめていれば、ぽんぽんと撫でられる。
「リゾットが、家事を頼めっつーんでよ、いいか?」
その言葉にこくりと頷く。家にいるときと大して変わらない仕事だし、何より監禁されるだけではないらしいことに少し安心する。すまねぇな、と笑うホルマジオはどこからどうみたって強面の優しいお兄さんだった。
「ディ・モールトベネ!これから名前の手料理が食べられるんだね!」
「ひゃああああああ!」
「メローネ!」
取り敢えず気を付けるべきは、後ろから抱きついているメローネなんだと思ってみる。



期限付きの束縛
(ギアッチョとイルーゾォは苦手かも)


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