抜き出した片足、 | ナノ
「知りません」
「おいおい、知らないってこたぁねーだろうよ」
何度この問答を繰り返しただろうか。怖い顔の男三人に囲まれて、更にトリッシュのことをいろいろと聞かれて。トリッシュのことについては一つたりとも答える気は、ない。誰が家族を売るような真似をするもんですか。もう一度聞くぜ、と剃り込みの男がこちらを睨む。
「トリッシュはどこだ」
「教える気はありません」
負けじとキッと睨み返しながらそう言えば、ついに闇色の目の男がため息を吐いた。
「どうしても答える気はないんだな?」
「はい」
この感情の籠らない声、冷たい目は苦手だ。だが、それしきの事で怯む気もない。男は仕方がない、と呟くと更に冷たい色を宿して、名前を見下ろした。
「ならば、痛い思いでもしてもおうか」
「……え、」
途端に左腕に激痛が走る。ひぐっ、と声を上げながら左腕に目を動かせば、腕からカミソリが飛び出していた。……飛び出して?なんで飛び出してんのさ。あれ、刺さるものじゃないっけ。痛みと不思議な現象に混乱しながらも少し馬鹿げたことを考えてみる。まだ、切羽詰まっちゃない。
「トリッシュはどこだ?」
「い、わない……っあ」
触ってもないのにカミソリがじわじわと動いていく。その上、更に体内からカミソリが溢れてくる。
「なに、これ……」
「説明したところでわからないだろう。答えないのなら、このままお前の腕を切り落とす」
事もなげに抑揚のない声でそう言い放つ男は、きっと本当にそうしてみせることができるのだろう。けど、
「……拷問されたって、殺されたって、何も言う気はない」
やっぱり、自分の命とトリッシュを天秤にかけたら、トリッシュが深く沈んでしまう。これはもう、シスコンなんてレベルじゃないもしれない。
決して意思を曲げない名前の目に、男たちのほうが思わず怯んだ。けれどどうにか口を割らないかと、カミソリの刃を腕の半分まで沈めてみせる。
「っ……」
そうしたところで、名前は唇を血が滲むほどに噛んで耐えるだけで、口を割るどころか叫ぶ気配さえない。今度こそ、戸惑いが隠せなくなる。残りの二人を振り返っても、どちらも自分と似たように苦い顔をしていた。これじゃあ本当に何も聞き出せそうにない。一度息を吐いて、カミソリを地面に落としてやる。驚いたように目を見開く名前から二人に目を向けると、どこかホッとしたような顔をしていた。
「……その意志の強さに免じて、これ以上はやめる」
「!」
「が、ここまで関わったからには外に出すわけにはいかない。ここでオレらの監視下に置かせてもらう」
そういった瞬間、名前の顔は少しだけ曇ったが何か諦めたらしく大人しく頷いた。きっとトリッシュのことを思ったのだろう。
「プロシュート、ホルマジオ、その傷の手当てをしてやってくれ」
「si.」
二人に背を向けて扉へと歩を進めた。後ろでホルマジオとプロシュートが、大丈夫か、なんて声を掛けている。
「手荒な真似して悪かったな」
「……」
「痛かったろ」
「……」
「あー、名前は?」
「…………名前」
名前は警戒心を緩めることなく不愛想にそれだけ告げた。名前な。ホルマジオとプロシュートは何回か口の中で繰り返した。一気に柔らかくなった男たちの雰囲気に戸惑いつつ、名前はこれからの自分の身を案じてみた。
「バンビーナにつけるような傷じゃあねェな」
「……トリッシュに、何の用があるんですか」
その質問に二人は顔を見合わせてどうしたものかと思案する。
「理由は、……言ったらトリッシュの居場所教えてくれるか?」
「それは嫌です」
「だよなー」
ケラケラと笑う剃り込みの男。美形の男も困ったように笑って、包帯を腕に巻きつけていく。これ、傷痕残るんだろうな。よし、と綺麗に止められた包帯の上から傷をなぞってみれば、痛みがぶり返してくる。しかし、丁寧に巻かれているのか、あまり痛みは響きはしなかった。二人は行くか、と言ってくるりと振り返って扉に向かって歩いて行った。慌てて立ち上がるが、上手く足に力が入らずに転けそうになる。が、剃り込みの男が支えてくれた。
「おっと、大丈夫か?」
「あ、ありがとうございま、す……」
なんとか体勢を立て直して歩き出すと、名前は何かを思い出したように振り返った。
「あの、お名前を聞いてもいいですか?」
「ああ、オレはホルマジオだ」
「俺はプロシュートだ」
よろしくとは言えねェが、と苦笑する。ホルマジオさんと、プロシュートさん。さっきも思ったけどチーズと生ハムじゃないか。これから監禁生活で嫌でも関わることになるだろう二人が少し優しかったことに驚きながらも、ちょっとだけ気が楽になった。
「じゃあ、他のやつらに顔見せに行かなくちゃあな」
……あ、やっぱり他にもいるんですね。



つたない強がり
(だけどトリッシュについて話す気はないよ)


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