抜き出した片足、 | ナノ
名前を医務室に運ばせると、ジョルノはリゾットについて来るように促す。少し名前を見て逡巡したリゾットの背中をプロシュートが笑いながら叩いた。確かにブチャラティを追い詰めただけあって幾らか冷静な男なのだろう。背中を押されたリゾットが一度名前の頬に優しく触れてからこちらに来たので部屋へと案内する。
中に入り手前にあるソファーに腰掛けるよう促して自分もその向かいに座ると、鋭い視線が飛んできたので苦笑して両手を挙げる。
「攻撃の意思はありませんよ。ちょっとした提案があるだけです」
「その提案というのが怪しいんだが」
「まあ、提案といいますか交渉といいますか……。その前に、状況の説明は要りますか?」
「ああ、頼む 」
「わかりました。では掻い摘んで説明しますね」
自分も頭の中で整理するように、ひとつずつ思い出しながら分かりやすく説明する。ボスを倒したこと、そしてその後近くに名前とリゾットたちの死体が転がっていたこと、ここに運び込み名前の様子を看て、目を覚ましてリゾットたちに会わせると名前のスタンドの暴走が起きたこと。そこまで話して一度言葉を切ると、眉を寄せたリゾットがぼそりと呟いた。
「ならば、生き返ったのは名前のスタンド能力ということか……?」
「おそらく。引き寄せる能力、と言っていたのできっとコロシアムの外に貴方たちが名前と倒れていたのも暴走だったんじゃないでしょうか」
「そうか……」
深く考え込むように黙ったリゾットに、本題を切り出す。
「そこで提案のことなのですが」
「ああ、そうだったな」
一度考えることをやめたらしいリゾットが顔を上げてこちらを見たので、じっと観察するように見つめ返しながら言葉を返した。
「僕の親衛隊をやりませんか?勿論暗殺チームのメンバーで、です」
「、は?」
ぽかんと、なんとも間抜け面でこちらを見るリゾットに今のボスは自分であることを言い、さらに条件を付け加える。
「貴方たちの今回の謀反の理由は確か、薄給と縄張りのことだったはずです。親衛隊になっていただければ縄張りは差し上げますし、収入だってあがるはずなのでメリットがあると思うんですが」
「……いや、それは願ってもない話なんだが、どうしてオレたちなんだ」
疑いを十分に含んだリゾットの目が睨み付けてくる。しかし勿論こちらにだってメリットがあるからこその提案だ。まず、今回の戦いで彼らの実力は見ることが出来たし、その実力は申し分ないほどである。二つ目に、お互いにメンバーのスタンド能力を知ってしまっているのでまた対立することはできれば避けたいことである。そして何よりも、これから組織を作り変えていく上で、確かに殺しは必要なのだ。それを得意分野とする彼らを味方、しかも親衛隊という近い立場に置いておくのは強みになるはずだ。
ここまで話せば、リゾットもある程度納得したのかまた黙って考え始めた。
「オレたちの立場の保証は」
「しますよ。先ほども言ったとおり対立は避けたいので」
「……名前の、保護は」
「言われなくてもトリッシュからの頼みなのでするつもりです」
「……そうか。だが、オレだけで決めるわけにはいかない問題だ。あいつらと話してきても構わないか?」
「勿論、できれば今日中に返事は欲しいのですが」
一度頷いて退室するリゾットの背中にいい返事期待していますよ、とだけ投げつけて深く椅子に沈んだ。



待っている間にミスタから状況だけは聞いていたらしく、そこは省いて親衛隊の話だけをしてお前らの意見はどうだと締めくくる。
「そりゃあ願ってもない話だが……、リーダーの意見はどうなんだよ」
「オレは受けるほうがいいと思うが」
「なら、オレたちに異存はねぇよ」
なぁ、となんとも軽く問いかけるホルマジオに全員が首を縦に振った。思っていたよりも気色のいい反応に少し驚いたが、これでジョルノ――もといボスへの報告は決まったなと一人頷く。そして話に一段落付いたと懐かしい二人に顔を向けた。ソルベとジェラートはそれに気付いて照れたような、少し申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「久しぶりだな、リーダー」
「あん時は勝手に行動して悪かった」
視線が集まる中、静かに笑って首を振る。色々と茶々を入れるメンバーにはオレが戻ってくるまでの間に散々言われたようで、昔のような、いや、あの頃よりも幾らか柔らかい雰囲気で軽口を叩き合っている。ここまで丸くなったのはきっと。
「受け入れてくれてありがとう、リーダー」
「あんたがリーダーでよかったよ」
「それはどうも。だが……礼は名前に言ってやってくれ」
お前らをここに戻してくれたのは、奇跡を起こしてくれたのは、紛れもなく彼女だ。途端に少し空気が重くなる。全員で囲っているベッドに寝かされている名前の頬にそっと触れると、暖かい体温が冷たい手に伝わる。わかってるよとジェラートが言ったきり、誰も口を開くことはなかった。ソルベとジェラートはどうやらまだ幼かった名前が本当にお気に入りだったらしく、今迄の話に相当なショックを受けていた。名前がこんな目に合うなんて、と青ざめた顔で呟いたジェラートの肩を、こちらも苦しげに顔を歪めたソルベがそっと抱き寄せた。自分で作ってしまった重い沈黙から逃げるように、ボスに報告に行くぞと部屋を後にした。


あとはきみを待つだけ

(君の目覚めだけを願って)


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