抜き出した片足、 | ナノ
病室に入れば、既に彼女は目を覚ましていた。トリッシュが駆け寄り、涙ぐましい姉妹の感動の再会だ。それを少し見遣ってから二人に近づく。
「目が、覚めましたか」
そう問えば、その女性――名前は、怯えたようにぼくを見上げた。見ればわかるじゃない、とトリッシュから可愛くない憎まれ口が返ってきて、それもそうですね、とだけ返す。軽口のやり取りを見たからか、名前はジョルノへの警戒はある程度解けたらしく、トリッシュへと矢継ぎ早に質問をぶつけていた。それらひとつひとつに丁寧に返したトリッシュは簡単に紹介をしてくれた。そうすると少し考えるような仕草をしてから彼女はリゾット、と言う名前を呟いた。やはり……、と口から洩れる。やはり、名前は暗殺チーム側に拘束されていたのか。おおかたトリッシュと間違えて捕えられていたのだろうと質問を投げかければ、曖昧に彼女は頷いて、少し違う、と言った。それにどういうことなのかと眉根を寄せていれば、一瞬戸惑った後、ぽつりぽつりと暗殺チームの話を紡いでいった。
彼女の話の中の彼らは、ギャングとは、しかも暗殺を生業とするような人物とは到底思えないものだった。彼女の思い出の中の彼らは、友人を気遣っているような、妹を可愛がっているような、あまつさえ恋人を甘やかすような、そんな雰囲気を持っていて、軟禁と言うよりは居候と言ってしまった方がいいような気がした。本当に自分たちが争ったあの暗殺チームなのかと、疑った。あの容赦の欠片もない奴らが、そんな人間らしい部分を奴らが持ち合わせていたというのか。名前が洗脳でもされているのかとも思ったが、崇拝しているわけでもやたらと庇うわけでもないその話し方からは、そういうわけではないように感じる。きっと名前の人を引き寄せるような人柄もあるのだろうが、それでも彼らの名前への行動は意外でしかなかった。さらに名前は、その頃のことをまるで愛しい思い出のように語るのだから、余計に普通の友人同士の会話を聞いているような気がした。トリッシュを探していた理由、それからボスへの反感を考えると、自分たちは本当は協力関係を結ぶべきだったんじゃないかとさえ思ってしまう。
途中から名前は、涙を流していた。幸せそうに話しながら、彼らがここにいないということを再び痛切に感じたのだろう。そっとハンカチを差し出せば、そこでようやく自分が泣いていることに気が付いたようだった。胸元をキツく握り締めて涙を流す彼女の姿は、亡くなった友人を悼んでいるようにしか見えなかった。ぼくの口からは、無意識に言葉がこぼれていた。
「会いますか、彼らに」
弾かれたように顔を上げた彼女は、困惑しているのが簡単に見て取れた。どういうことかと聞くので、彼女の周りにリゾットたちが倒れていたこと、ついでにブチャラティたちも倒れていたことを説明してやれば、何か考え込むように俯いてしまった。その姿を見ながら、一つ質問をしていなかったことに気が付いた。彼女はスタンドを使えるのだろうか、と言うことである。トリッシュはまるで血が繋がった姉妹かのように彼女の存在を感じたというのならば、お互いに色濃く影響を及ぼしてトリッシュにスタンドが発現したように、彼女にも能力が現れていてもおかしくないのではないだろうか。
「ぼくの後ろに、何か見えますか?」
ゴールドエクスペリエンスレクイエムを出してそう聞けば、すぐに彼女はそれに焦点を合わせて自分の背後にも同じように出現させた。予想通り、彼女もスタンド使いのようだった。能力を聞けば、少し躊躇った後に答えた。その能力ならば、彼らの死体をあそこに連れてくるのも可能ではないのか、と問えば、不可能ではないかもしれないがそれでも物理的に無理があると答える。試しに椅子を引き寄せたその様子に確かに矛盾点がいくつかあるように思えた。



一先ず名前は無害であるようなのでスタンドは後回しにして、彼女をリゾットたちのもとへと連れて行く。部屋の前まで案内すれば、緊張したように体を強張らせていた。それを横目で見ながら部屋を開けて、どうぞと促す。中へ入った途端、一瞬驚いたように彼ら全員を見回して、すぐに目に涙を浮かべていた。一応確認のため、彼らであっているかと聞けば、そうだと頷いた。
「どうせなら、綺麗な姿が、見たかった……。きっと眠っているようにしか、見えないんでしょう……」
無理に笑みを浮かべながらそう呟く彼女は、儚く、今にも消えてしまいそうなほど、美しかった。見惚れてしまいそうなその姿から無理矢理引き剥がすように視線を動かして、リゾットたちを見る。彼らは、死んでしまっている。敵だったとはいえ、先程の名前の話もあって、完全な悪とは言い切れなくなっていた。彼らの顔は、報告書で確認してあるし、何人かは実物だって見ているのだ。少し考えてから、そっと視線を上げて名前を外へ出るように促した。
名前は、とても率直で魅力的な人柄をしている。トリッシュの姉と言うこともあり、信頼には値するだろう。そして、何よりも彼女の思い出に免じて、死体を綺麗にすることくらいなら、引き受けてもいいかもしれないと思ったのだ。そんな冷静さを欠いた判断に、自嘲気味に溜め息を溢した。



(彼女を笑顔にしてやりたいと、そんな浅はかな想い)


|×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -